武漢流出説に米国起源説で対抗 科学そっちのけの泥沼化

新型コロナウイルス

北京=林望
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 新型コロナウイルスが中国・武漢の研究施設から流出したとの説をめぐり、バイデン米大統領が米情報機関に求めた調査の報告期限が今月末に迫った。中国政府は激しく反発し、なりふり構わず対抗策を講じている。両大国の政治対立の泥沼化は、起源の科学的解明を一層難しくしている。

 バイデン氏は5月26日、新型コロナウイルスの起源の再調査を米中央情報局(CIA)などに命じ、90日以内に報告するよう求めた。世界保健機関(WHO)と中国が1~2月に行った合同調査で、「可能性は極めて低い」とした武漢ウイルス研究所からの流出説に再び光を当てる動きだけに中国の反発は激しい。

 「米国はあらゆる手段を使ってWHOや専門家を脅しているほか、情報機関に調査をさせている。これを問題の政治化と言わずになんと言うのか」

 今月13日、北京の各国大使館員らを集めてこの問題についての説明会を開いた馬朝旭外務次官は、激しい言葉を連ねて米国を批判した。

 共産党指導部に政策提言する政府シンクタンクの対米関係専門家は「報告書はバイデン政権の対中敵視の象徴で、両国関係に破壊的な影響をもたらす。なぜ研究機関でなく情報機関に調査させるのか」と憤る。

 中国側も対抗策に乗り出した。外交研究者らによると、党中央からは「一方的に受け身でいることは許されない」として関係機関に指示が出ているといい、中国外務省関係者も「国際世論への影響を防ぐよう知恵を出せと言われている」と明かす。

 そこで熱を帯びるのが、「米国起源説」をめぐる宣伝戦だ。2019年に米メリーランド州の軍の研究施設が閉鎖された後、各地で新型コロナに似た症状が報告されていたという一部報道に基づき、中国政府とメディアは先月来、米国への国際調査を求めるキャンペーンを展開し、署名を集めるなどしている。

 中国の主要メディアは、スイスの生物学者が「(武漢での調査についてWHOに)米国が圧力をかけている」などとSNSに書き込んだと相次いで報じた。しかし、在中国のスイス大使館が「そのような人物はスイスに実在しない」と否定し、各メディアが記事を取り消す騒ぎもあった。

 米CNNは今月、米情報機関が武漢ウイルス研究所で扱っていたウイルスの遺伝情報を含むデータを入手したと報じているが、研究所からの流出を裏付ける決定的な証拠になるかは不明で、中国側が情報入手の仕方など調査の信頼性に徹底的に異議を唱えるのは必至だ。

 WHOのテドロス事務局長は7月、武漢の研究所を含む再調査を呼びかけ中国に全てのデータの提供を求めたが、中国は1回目の調査で必要なデータは提供しているとして「(再調査は)科学に背を向けるものだ」(曽益新・国家衛生健康委員会副主任)と拒否した。米国との対立の下で中国は態度を硬化させる一方で、科学的な起源解明の環境はより険しくなっている。(北京=林望)

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