ひょっとして認知症? 街中で迷っている人をみかけたら

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松本一生
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 ご存じの方も多いかと思いますが、朝日新聞では認知症などの場合に自分の居場所がわからなくなって自宅などから出て行ってしまう行為を、差別的な意味合いのある「徘徊(はいかい)」と表現することをやめ、当事者や家族に対する差別的な表現をなくそうと努力しています。このコラムでも2度にわたって「行方知れず」という表現を使って記事を掲載しました。しかしコロナ禍の今、その行為はこれまでとは異なる課題点を持つようになりました。今回はそのことについて考えてみましょう。

「ぼんやりしてふらふら」は10人に1人

 ずいぶん前に出版された本や映画では、認知症になった当事者が出かけて迷うさまを「恍惚(こうこつ)」と表現したものがありました。当時としてこのテーマを取り上げたことは画期的でしたが、「何もわからなくふらふらとそのあたりをさまよっていること」というイメージにつながり誤解が生じました。ちなみに「徘徊」は今でも専門用語として残っています。

 私がこれまで30年に担当した9300人余りの認知症当事者のうち、出かけると行方知れずになる傾向が出た人は全体の15%程度の人に認められましたが、そのうち「本当にぼんやりとして、ふらふらと出かけた」という人は10人に1人ぐらいの割合にしか過ぎませんでした。それ以外の人は「道がわからなくなって困っている人」だったのです。

 それなら私たちに求められるのはそうしたことを理解して共感し、「(認知症があろうとなかろうと)出かけて道に迷い、困っている人をどうサポートするか」というまなざしを持つことです。

 ただし全体から見ると10人に1人程度の少数派ですが、その人の意識が軽く混濁している「せん妄」が起きている可能性も無視してはいけません。せん妄になると目を開けていても当事者の頭の中は半分眠ったような状態で、どこか遠くを見ているようなまなざしになります。入院した直後、夜中に混乱して点滴を引き抜くことや、混乱して大声をあげたりするのがせん妄の姿で、環境の変化や認知症による脳変化、心理的な不安感などが引き金になります。

 これまでの私のクリニックのデータでは午後4時、7時、10時の前後あるいは深夜にせん妄が起きやすいので、家族がその時間帯に注意すること、外に出ようとする時間を医師に伝えて服薬などの調整をすることで、前もって「行方知れずになる危険性」を予防することも可能です。

見当識が認知症で低下

 それ以外、「出かけて帰られなくなる人」の多くは、その人の見当識が悪くなっていることを理解してください。時間や場所をしっかりと把握する力を「見当識」と呼び、見当をつける力が認知症などで低下することを「失見当」と呼びます。彼らの多くはその見当識が認知症によって低下しているのです。

 失見当が目立ってくると、自宅から近所までちょっとした買い物に行こうとして玄関を出たとたん、自分の場所がわからなくなり、必死の思いで帰り道を捜すのですが、かえって道に迷ってしまい帰られなくなります。この状態は必ずしも永遠に続くことはありません。改善する人もいますので根気よく対応してあげてください。

 実際のところ、地域で「行方知れず」になっている当事者に出会った場合、私たちに求められるのは、意識混濁か、必死で帰り道を捜しているのかを見極め、不安そうな人を見た場合には「見なかったふりをしないこと」が大切です。「声をかけると失礼ではないか」と思うかもしれませんが、少しおせっかいであっても「お困りですか」とさりげなく声をかけてあげることで、帰り道を必死で捜して焦っている人の助けになります。

コロナ禍で生じた新たな課題

 しかし、昨今ではちょっと事…

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松本一生

松本一生(まつもと・いっしょう)精神科医

松本診療所(ものわすれクリニック)院長、大阪市立大大学院客員教授。1956年大阪市生まれ。83年大阪歯科大卒。90年関西医科大卒。専門は老年精神医学、家族や支援職の心のケア。大阪市でカウンセリング中心の認知症診療にあたる。著書に「認知症ケアのストレス対処法」(中央法規出版)など