薬物混入被害から4年 五輪を逃し、パラ選手のコーチに

榊原一生
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 東京オリンピック(五輪)出場の夢が断たれ、東京パラリンピックに挑む選手のコーチ役として強化に励んできた日本選手権王者がいる。カヌー・スプリントの小松正治(29)=愛媛県競技力向上対策本部。6月中旬から強化合宿をともにしてきた。「五輪を逃した自分の分も」。大舞台への思いを、パラ選手に託す。

 7月中旬、石川・木場潟カヌー競技場であった、東京パラリンピックに向けたパラカヌーの強化合宿。練習準備を始める選手の中に小松の姿があった。パラカヌーは主に下肢に障害のある選手たちが対象で、舟を持ち上げられない。小松は水上に舟を運んだり、自らカヤックに乗り込んでトップレベルの技術を教えたりしていた。

 「パラでも、大事なのはパドルで水をつかむこと。技術を言葉にするのは大変だけど、自分の練習にもなる」

 きっかけは、日本代表の本田泉ヘッドコーチから声をかけられたことだった。5月の東京五輪アジア予選で五輪代表入りを逃し、「できることがあれば」と引き受けた。

 4年前、ある「事件」が起きた。五輪出場の目標を失いかけ、絶望感に襲われた。それを思うと、頼りにされるありがたさが身にしみた。

 2017年9月、カヌー・スプリントの国内大会。ライバル選手から飲み物に禁止薬物を不正に混入され、ドーピング検査で陽性となった。暫定的な資格停止処分によって東京五輪への道が断たれかけた。加害者が事実を認めたことで処分は解除となり五輪への道は開けたが、切符は勝ち取れなかった。

 「悔しい。でも、パラ選手たちの頑張りを見ていると、次のパリ五輪を目指す上で励みになるし、刺激にもなっている」

 パラカヌーは200メートルのスプリントタイムを競う。速さを競うという点では健常者の競技と同じでも、パラでは体幹が利かない選手や片足がない選手ら、障害の種類や程度は様々だ。「自分の場合はこうしている」といった指導は通用しない。選手が持つ機能を、どう生かし、最大のパフォーマンスにつなげるか。悪戦苦闘しながら、パドルひとかきの強化に力を入れる。

 水上で小松の声が響く。「ここで頑張ったらメダルに近づくぞ」。そう選手を鼓舞し、自ら先頭に立って選手たちを引っ張る。小松が加わったことで生まれた新たな練習環境を、辰己博実(テス・エンジニアリング)は「今までは自分より速い相手がいなかったので、(先頭を追いかけて)追い込むことができる」と喜ぶ。

 競技が正式競技となった前回のリオデジャネイロ大会は出場わずか1人だったが、今回は6人が代表に名を連ねた。障害の有無を超えた高め合いが、パラカヌー界初メダルにつながるかもしれない。(榊原一生)

カヌーで起きた薬物混入

 2017年9月に開催された日本選手権のドーピング検査で、小松正治に陽性反応が出た。日本アンチ・ドーピング機構(JADA)は小松を資格停止処分としたが、18年1月、日本代表候補だった選手が小松の飲み物に、筋肉増強効果がある禁止薬物を混入させたことが明らかとなった。小松の処分は解除となり、薬物を混入させた選手は8年間の資格停止処分に。日本連盟からは除名処分を受けた。