木村草太さん「妻が離婚を考えた」から私は変わった

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 新型コロナウイルスの感染拡大で在宅時間が長くなる中、家事や育児の分担をめぐって、夫婦でもめることはないでしょうか。憲法学者で東京都立大学教授の木村草太さん(41)は、妻から離婚をほのめかされたことをきっかけに、自らの役割意識の見直しを迫られたそうです。仕事中心の生活を切り替えた結果、仕事の研究対象にも大きな変化があったと言います。話を聞きました。

 結婚して15年ほどがたちました。子どもが2人いますが、第1子が生まれてしばらくは、結構やっていたものの、家事や育児は「手伝うもの」という認識でした。勤務時間としては妻の方が短かったこともあり、自分は仕事をして当然かな、という意識もありました。

 しかし、第1子が生まれて2カ月ぐらいの頃、妻と散歩中に、妻から映画の話をされたんです。「ある結婚の風景」という邦題のスウェーデン映画で、夫婦が離婚する話でした。妻は、最初の子どもが生まれて数カ月で離婚を考えるというのは、すごく普通のことなんだと感じたらしい。その話を聞き、妻は離婚を視野に入れているのだと感じ、これまでの生活を切り替えなくては、と思った。

 もちろん、妻が大変そうだな、とは思っていました。でも、そこまで大ごとだとは思っていなかったのだと思います。妻に甘えていた部分が多々あることを自覚しました。

 子どもが生まれた頃は、私も本格的に忙しくなった時期でしたが、保育園の頃の送り迎えは基本的に私がやるようにしました。迎えに行く時間までに仕事を片付けるようにして。小学生になると保育園の頃よりも子どもの帰宅時間が早くなるので、夜にまた仕事をする、というようなスケジュールに変わりました。

 妻が離婚を思いとどまるぐらいに家事や育児をやっても仕事は十分にできるということも分かった。自分の仕事の効率を見直せばいいのだ、と。たとえば1時間で読み終わる論文を2時間かけて読んではいけない、みたいなことです。その日に1時間しか使えない、ということになった時に、どうやるのが一番効率がいいか頭を使うということ。締め切り効果ですね。

 私は研究者で非常に裁量性が高いので、そうした時間配分ができるということはあります。でも、それぞれの職場で家庭に割く時間を増やす方法はあるのかな、とは思います。家庭を維持するためには「意思」が必要です。

 ただ、家事の時間を増やすのはスタートラインだと思っておかないと、男性がいばるための免罪符になってしまう。やった上で、どこまで子どもの話を聞いているか、妻と目が合うか。そういうことが、家庭生活をちゃんとやれているということではないでしょうか。心が大事だと思っています。

 私も日々洗濯をしたり、ごはんを作ったりしていても、子どもを気にかけるという点では、まだまだ妻に及ばない。以前、子どもが転んでケガをして帰ってきた時に、私はケガのことしか頭に浮かびませんでした。でも妻は、もしかしたら子どもが難病なのかもしれないという可能性まで考えていて、心配の度合いが全然違う。

 子どもの表情を見て、何か話を聞いてあげなきゃいけないことがあったのか、単にすねているだけなのか、みたいなのを見るのも妻の方がうまい。私は子どもの話を聞いていなかったのかな、という反省を日々しています。

 このような生活をしていることは、研究にも影響していると思います。昔は純粋理論みたいなものを結構やっていましたが、最近は、生活と結びつかない議論はあまり面白くないと思うようになってきた。PTAへの強制加入とか、子どもの人権などは、家庭生活がないとあまり考えないですね。

 憲法24条には「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」とあります。

 最近、24条は同性婚との関係で注目されることが多いんですけど、出発点には、家庭生活における女性の権利確立があった。そのことが忘れられてはいけないだろうと感じています。

 夫婦2人でどこかに行って交渉する時は、学校でも、契約などの場でも、最初は私に向かって話す担当者が多い。だんだん力関係が分かってくると、妻の方を見るのですが。対外的な交渉では、女性が不利になりがち、と感じます。

 家庭生活では、経済力が夫の側にある方が多い。そうすると、夫とまず交渉して夫がOKしなければ物事が進まない、と思う担当者が多いんですかね。

 私の妻が離婚をほのめかすことが出来たのは、(東京大学のゼミの先輩である)妻の側にかなり高い能力と経済力があったからで、それが無ければ妻はもっと窮屈で、私はいばっていただろう、と感じます。

 「昨日までニコニコしていた妻から急に離婚を切りだされた」というような男性もいますが、それは夫側のストーリー。妻は、本音が言えないから穏やかそうにしているだけで、見えている世界が全然違うということがあるんですよね。(聞き手・山本奈朱香

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