若者の夢につけ込み金もうけ 理念ずたずた技能実習制度

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ハノイ=宋光祐
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 「どんなにお金がかかっても、とにかくベトナムに帰りたいと思った」

 ファム・ティ・ロアンさん(25)はレンガ造りの家の軒先に出したテーブルで私と向きあい、目に涙を浮かべた。技能実習生として日本に渡り、今年3月に帰国するまでに経験した日々を語るうちに、つらい気持ちになったようだった。

 ロアンさんが両親ときょうだいの計5人で暮らすベトナム中部ゲアン省は、建国の父ホー・チ・ミンの出身地として知られる。国内で最も貧しい地域の一つとされ、数多くの実習生を送り出してきた。ハノイから車で6時間。私が彼女に会いに行った7月上旬には、道路沿いに広がる水田で稲穂が青々と育っていた。

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 南北に細長く領土が伸びるベトナムでは、首都ハノイと最大都市ホーチミンを中心に北部と南部が急速に発展を遂げている。一方、農村地帯の中部は取り残されており、外国に働きに行く人が多い。コロナ禍の前の2019年、ベトナムから外国に出稼ぎに行った労働者は15万人に上り、このうち日本に渡ったのは8万人で最多。その大半が実習生だった。派遣をあっせんする送り出し機関の関係者は「都市部では賃金水準が上がって日本で働く魅力が薄れている。実習生のほとんどは貧しい地方の農村出身者だ」と話す。

社員寮追い出され、帰国もできず

 ロアンさんは2017年4月に日本に渡った。高校を卒業後、ベトナム北部にある韓国系企業の電子部品工場に就職。月給は約2万円でベトナムでは平均的な金額だが、両親や年下のきょうだいの生活を助けたいと、日本に行くことを決めた。

 「テレビやネットで日本の桜の花や観光名所を見て好印象を持つようになった」

 茨城県那珂市にある実習先の電子部品工場では、期待していたほどの残業はなかったが、手取りの月給は事前に聞いていた約10万円がもらえた。実家には3カ月ごとに約20万円の仕送りができた。

 ところが昨年3月上旬のある朝、社員寮にやってきた担当者からいきなり「工場には行かなくていいから部屋から出て行くように」と告げられた。それ以上の説明はなく、会社がコロナ禍の影響で倒産したと知ったのはしばらく経ってからだった。

 実習期間が約1カ月残ってい…

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