「ポスト・メルケル」大混戦 ドイツ総選挙まで1カ月

ベルリン=野島淳
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 9月26日投開票となるドイツ連邦議会選挙(総選挙)が1カ月後に迫った。欧州連合(EU)の主要国として数々の危機対応に当たり、16年の長期政権を担ったメルケル首相(67)の後任を決める争いだが、主要3陣営が競り合う。

 「借金は次世代への罪だ」。ベルリンで21日にあった中道右派キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の集会。メルケル氏も客席で見守るなか、ラシェットCDU党首(60)は険しい表情で演説した。

 新型コロナウイルス対策で企業支援や市民への充実した検査ができたのは、健全財政で「経済力と蓄えがあったからだ」と主張。増税を伴う財政拡大路線の中道左派社会民主党(SPD)を批判した。

 気候変動対策でも、自動車産業などの競争力や雇用を維持しながら進める考えを強調し、環境政党・緑の党を「思想だけで、どう実行できるかには関心がない」と切って捨てた。

 力強い指導者像をアピールしたのは、各種世論調査でCDU・CSUの支持率が軒並み落ち込み、第1党すら危ぶまれているからだ。コロナ対策の成果で昨年5月に40%近くまで回復した支持率は直近、20%台前半まで落ち込んだ。

 背景にはラシェット氏の不人気がある。公共放送ARDの直近の調査で、「首相を直接選べるなら誰か」との問いで、ラシェット氏は16%だった。

 ドイツで最も人口の多い西部ノルトラインウェストファーレン州の州首相も務めるラシェット氏は、行政経験が売りの調整型リーダーだ。だが、言動に疑問符がつき、有権者の信頼は高くない。

 同州でも大きな被害が出た7月の大洪水で被災地を訪問した際、ラシェット氏は周囲と談笑している映像をメディアに撮られ、「不謹慎だ」と批判を浴びた。

 アフガニスタン問題でも、「2015年を繰り返してはならない」と発言。シリアから多数の難民が押し寄せた年だが、まずはドイツに協力した現地スタッフらを迅速に助ける局面で難民問題への心配を前面に出し、一部で非難された。

 メルケル氏は16年間、金融危機や難民危機への対処など、国内外で存在感を示した。ドイツの首相は多方面で指導力を期待され、誰が次を担うのかの注目度は高い。コロナ対策や気候変動対策など各党の主張の違い以上に、首相候補の資質に焦点が当たりがちだ。

 気候変動への関心の高まりで、4年前の総選挙から得票率を倍増させそうな緑の党も、最近は失速気味だ。行政経験のないベアボック共同党首(40)は「政治の刷新」を訴えるが、経歴の誇張や著作での無断利用など、次々と問題が表面化した。同氏を「首相に」との回答はラシェット氏より低い12%にとどまった。

 本命の相次ぐ「自滅」で漁夫の利を得るのがSPDのショルツ氏(63)で、41%が首相への期待を示した。現職の財務相で、ハンブルク市長なども務めた実績があり、今のところ目立ったミスがない。党の支持率も10%台半ばから1カ月で急伸し、CDU・CSUを上回った調査もある。

 現状、CDU・CSUと社民党という伝統的2大政党の連立だが、混戦が続けば、過半数には少なくとも3党の連立が必要となる。

 1998~2005年以来の政権入りを目指す緑の党は連立交渉で、一段と強力な気候変動対策を求めそうだ。外交面でも、ロシアや中国に対する厳しい対応を求めるとみられる。

 緑の党と異なる主張が多い産業重視のリベラル政党・自由民主党(FDP)も交えた4勢力の複雑な組み合わせをめぐる連立交渉となり、選挙後の政治空白が長引く恐れがある。(ベルリン=野島淳