一本のロープがくれたもの 少年院から140秒のエール

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伊藤和也
【動画】東京パラリンピック代表選手への応援メッセージを収録する赤城少年院の少年たち=伊藤和也撮影
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 東京パラリンピックに出場する全盲のランナーに、地元の少年院で立ち直りを目指す少年たちがエールを送った。障害との向き合い方、競技に対するひたむきさ、支えへの感謝。一本のロープでつながり伴走した経験から感じた選手への思いを、2分20秒余りの音声メッセージに込めた。

 悔いのないよう頑張って下さい。私もしっかりと頑張っていきたいです――。

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唐沢剣也選手への応援メッセージを収録する少年たち=2021年8月5日午後、前橋市の赤城少年院(画像の一部を加工しています)

 群馬県中東部にそびえる赤城山を北に仰ぐ赤城少年院(前橋市)。木々や沼に囲まれた施設の一室で8月上旬、14~17歳の少年10人が収録に臨んでいた。2列に整然と並び、緊張した面持ちで直立。ビデオカメラを手に1人ずつ回る教官の合図でそれぞれメッセージを吹き込むと、全員で一斉に声を張り上げて締めくくった。「ファイトー!」

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伴走者の2人とガッツポーズをとる唐沢剣也選手(中央)=2021年7月、前橋市内、柳沼広幸撮影

 エールの送り先は27日午前、陸上男子5000メートルの最も障害が重いクラスに出場した群馬県出身の唐沢剣也選手(27)。今年5月には世界記録の更新も果たした。この2月、県スポーツ協会から紹介を受け、少年院で講演してもらったのがきっかけだった。

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コーチの伴走でコーナーの走り方を練習する唐沢剣也選手(右)=2021年7月、前橋市内、柳沼広幸撮影

「人生で初めて信頼受けた」伴走体験

 講演後には、ロープの両端の輪っかを互いに持って並走する伴走も体験した。腕の振りを合わせられずうまく走れなかったり、コーナーを回る際に声かけが遅れてぶつかったり。課題に出された感想文では、多くの少年が初めての経験に悪戦苦闘したことをつづるなか、「人生で初めて人から全信頼を受けた気がした。責任感とともに自分も支えられていると感じた」とも書いた少年もいた。

 東京大会の開幕まで1カ月に迫った7月下旬、教官が応援メッセージを送ろうと提案した。手紙や寄せ書きを代読する案もあったが、「唐沢選手が直接感じられるように」と音声に決まった。

 「前向きな姿に憧れを抱きました」。ある少年(17)は率直な思いをメッセージで伝えた。「支えてくれる人たちがいるからこそ」と言い、障害にも恨み言一つこぼさない唐沢選手の姿に、「マイナス思考で、人のせいにして自分は悪くないと考えてしまう」自身を省みた。伴走したときのことを「そんな自分でも頼りにしてくれている感じがしてうれしかった」と振り返り、「責任から逃げず、人のために何かできるようになりたいと思った」という。

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取材に答える少年。唐沢剣也選手の「すごく前向きな姿勢がかっこいいと思った」と話し、応援メッセージでは八つほどの案の中で迷った末、「自分の気持ちをストレートに伝える」ことに決めたという=2021年8月19日午後、前橋市の赤城少年院

支えに感謝「当たり前じゃない」

 別の少年(17)も、周囲の…

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