優しい球児、家族の言葉で鬼に徹する 全ては仲間のため

辻健治
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(26日、高校野球選手権大会 京都国際3-2敦賀気比)

 敦賀気比の三塁コーチ、渡辺飛雄馬の好きな言葉は「鬼」だ。

 グラブの手を入れる部分には刺繍(ししゅう)の文字で「鬼」。持ち歩く手作りのお守りにも「鬼」と縫ってある。

 寮には月に一度、奈良県三郷町の実家から仕送りが届く。寮では食べられない大好きなチョコチップメロンパンや、シャンプーなどの日用品とともに、母からの手紙も届く。必ず最後にこう書かれている。

 「鬼になれ」

 中学2年の時に2歳上の姉が授けてくれた言葉だ。

 人に強く言うのが苦手だった。嫌われたらどうしようと気を使った。野球は勝負事。それなのに性格が優しすぎると言われてきた。試合で結果が出ないで落ち込んでいると、姉が見かねて言った。

 「プレッシャーや弱気に負けていたら、この先もやっていけない。自分に対しても人に対しても厳しい『鬼の心』を持ちなさい」

 奈良県から選抜で優勝経験がある福井県敦賀気比に進むと決めたのは、厳しい環境で鍛えたいと思ったからだ。

 昨夏、新チームになり、背番号がもらえるか不安になった。チームの役に立つためには、どうすればいいか悩んだ。試合に出たい気持ちを抑え、三塁コーチに立候補した。一歩踏み出さないと自分が変わらないと思った。

 その時に意識したのも「鬼になれ」だった。

 三塁コーチは自信を持って指示を出さなければ、信頼してもらえない。判断力を高めるだけでなく、選手の能力を知るため、練習でもコーチスボックスに立ち続けた。

 信頼関係を築くために寮でも自分から周囲とコミュニケーションを図るようにした。ミスや緩慢なプレーがあれば、厳しく指摘する。今まで得意ではなかった自分の思いをはっきり伝えていくことが、チームの勝利につながると考えた。

 この夏、甲子園での3試合目となった準々決勝。八回一死一、二塁の先取点のチャンス。前川誠太が左前安打。二塁走者・沼田航が三塁を蹴ろうとした時、際どいタイミングだったが、ためらいなく右腕を回した。チームの先取点がここで生まれた。

 試合は、サヨナラ負けに終わった。でも、大事な場面で、強い気持ちで判断できた。

 だから、奮い立たせてくれた姉と母に伝えたい。

 「強くなった。鬼になれた」と。(辻健治)