「走りたい」自ら決めた パラ開会式主役演じた和合さん

野村周平
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 東京パラリンピックの開会式で「片翼の小さな飛行機」を演じ、好評を博した中学2年生の和合(わごう)由依さん(13)が26日、インタビューに応じた。半信半疑で応募したオーディションに合格。まさかの「主役」に起用され、重圧の中で考え方が変わったという。「楽しくてたまらなかった」という夢舞台は、演技経験のなかった車いすの少女に、人生の目標を芽生えさせた。

 きっかけは母の一言だった。朝日小学生新聞にあったパラの開閉会式キャスト公募の記事を見て「出てみない?」と勧められた。当時小学6年生。「絶対無理だよ」と最初は断っていたが、「落ちても人生の経験になるかな」。PR動画と志望動機の書類審査をパスすると、2次審査でオンライン面接が待っていた。

 物まねが好きで、大好きな志村けんさんの「あいーん」をパソコンの画面越しに審査員に披露した。色々聞かれたが、緊張で何を答えたか記憶がない。「だめだったな」とあきらめていたら、合格の通知が来た。「ギャーッて叫びました」

 コロナ禍での延期を経て今年3月ごろ、演出家や出演者と顔を合わせた。数人いる中心キャストの一人と思っていたら、「主役と言われて信じられなかった。超びっくり」。お世話になっている介助の先生や学校の先生に恩返ししたい気持ちが原動力になった。

 「小さな飛行機」は最初、空に飛ぶ勇気を持てず悩んでいた。実際の自分は何事にも挑戦を恐れない性格。役柄とのギャップをどう埋めるかに悩んだ。

 小学4年生の時、憧れの吹奏楽部に入ろうとした。当時は今より体が小さく、年に数回入院していた。学校の前に朝練もあり、家族に止められた。それでも、和合さんはあきらめなかった。5年生になって体験入部。ほとんどの楽器を吹き、周りを認めさせた。挫折を乗り越えた経験が、芯の強さの源だ。

 多くの障害者の出演者との共演で気付きがあった。周りは演出家に助言されても主張を曲げない。その姿に和合さんは「自分の思いをもっと発信していいんだ」と背中を押された。

 演出のクライマックスとなる小さな飛行機が滑走路を飛び立つシーン。最初は周囲から「車いすを押そうか?」と提案された。生まれつき下半身と左手に障害がある和合さんは普段、電動車いすを使う。開会式は手動の車いす。それでも、自らこう言い切った。

 「自分で走りたい」

 学校で左手を使う頻度を増やした。車いすを電動から手動に切り替えて、家の周りを走った。本番は雨で車輪が滑ったが、約20メートルを自力で走りきった。

 共演したパントマイムのいいむろなおきさんの演技に刺激を受け、両親に隠れて毎日、鏡の前で目の動きや様々な表情を練習した成果は本番で実った。体調に無理がないよう、稽古の時間を調整してくれる周囲の配慮もうれしかった。開会式を終えると、「もうこのメンバーで集まれないんだ」と涙があふれた。

 大役を終え、夢が生まれた。「最初は演技経験がなくて不安だったけど、みんなで一つのものを作るのは素晴らしいと思った。将来は、演技の仕事についてみたいな」

 8月いっぱいで夏休みは終わる。それまで、パラリンピックで気に入っている5人制サッカーや水泳、ボッチャを見るつもりだ。「国や人種に関係なく、応援したい」(野村周平)