「悪魔」だった母との日々 聴覚障がい者が映像劇

染田屋竜太
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 生まれつき耳の聞こえない女性が、難聴者でも見やすいように、手話を入れた映像劇を制作している。題材にしたのは、聞こえない自分を必死にしゃべれるようにしようとした母との日々だ。障がい者として経験した差別も描かれる。「見た人が障がいや差別を考えるきっかけになる作品にしたい」と話す。

 東大阪市の安藤美紀さん(52)は、聴覚障がいがある人に付き添う聴導犬の普及や、聞こえない子どもたちの教育支援をするNPO法人「Mamie(マミー)」の代表を務める。

 劇を作ろうと思ったきっかけは昨年、演劇を見にいったことだった。同行した手話通訳2人にセリフを伝えてもらったが、「登場人物が多いとわからなくなってしまう」。観劇することの難しさを感じた。

 そこで、得意の絵を使った映像劇を思いついた。イラストにセリフやト書きを入れた数百枚の画像をスクリーンに順番に映す。横で、主にセリフの部分を安藤さんが、ナレーションは手話通訳が声と手話で伝える。字幕だけではなく、「手話をする人の表情や動きの大きさで、聞こえない人でもより深く物語を感じられます」。上演時間約1時間の2作品をつくる。

 描かれるのは、幼い頃の安藤さんと、3年前に亡くなった母親の千鶴子さんの姿だ。千鶴子さんは、安藤さんが聞こえないとわかっても、しゃべらせようと「特訓」した。カ行の発音はうがいをしながら、ハ行の発音はろうそくを吹き消しながら……。手話は禁止。食事のおかずを全部言葉にできるまで食べさせてもらえなかった。当時は「悪魔」とも思えた母だが、今ならその愛情を理解することができる。

 障がいのある子が生まれたとわかれば「罰が当たった」と言われた。千鶴子さんは石を投げられたこともある。劇には、千鶴子さんが安藤さんとともに死のうと考える場面も出てくる。

 物語は40年以上前のこと。でも、「今は変わった」と言えるのか。相模原市の障がい者施設で入所者19人が殺害された事件で死刑が確定した男は「障害者は不幸をつくる」と供述した。「今でもこういう考えの人がいるのか」。安藤さんは重い気持ちになった。新型コロナウイルスの影響で人々の心がささくれ立ち、ネット上で中傷が飛び交うことにも心を痛める。

 だから、劇は障がいのない人にも向けている。「障がいを持つ親子の現実を見てほしい」。同情ではなく、「どういう社会を作りたいかを考えてほしい」と安藤さんは思っている。

 今年中に撮影し、来年2~3月のオンライン公開を目指す。制作費用を31日までクラウドファンディングhttps://camp-fire.jp/projects/view/440688別ウインドウで開きます)で集めている。(染田屋竜太)