北陸第1号のパートナーシップ利用者「幸せな人増える」
【石川】7月1日、1組のカップルが新たな門出を迎えた。
「誰かから『パートナー』と言ってもらうなんて初めて。改めて、これからも一緒にいたいと思った」
金沢市の岡田千央美さん(36)は、隣に座るパートナー、小室礼子(あやこ)さん(36)に目をやって照れ笑いした。
2人は、金沢市の「パートナーシップ宣誓制度」の最初の利用者だ。
岡田さんは、体の性と自認する性が異なる「トランスジェンダー」で、いまは男性として暮らす。ホルモン治療を受ける一方、体への負担を考えて手術はせず、戸籍上の性別は女性のままという。小室さんは、性別にとらわれず人を好きになる「パンセクシュアル」を自認する。2人がパートナーになって約12年。生活をともにし、飲食店を営んでいる。
東京都渋谷区などが、全国で初めて同性パートナーを婚姻に準じる関係と認める「パートナーシップ制度」を始めたのは2015年のこと。認定NPO法人虹色ダイバーシティ(大阪市)と渋谷区の調査では、導入自治体は110(7月1日時点)に増えた。
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北陸での導入は金沢市が初めてだ。
市は早期の導入を目指し、条例ではなく市長判断で定める要綱で対応した。宣誓したカップルが利用できるサービスは、市営住宅への入居▽市立病院への入院にパートナーが同意できる▽長く在職した消防団員のパートナーへの感謝状贈呈▽市職員がパートナーの忌引などでも特別休暇を取れる、の4項目。
金沢市ダイバーシティ人権政策課の橋爪覚(さとる)さんは「いまは制度を使うメリットは感じにくいかもしれない」としつつ、実績を重ね、「もっと魅力あるものにしたい」と話す。
サービスを絞ることで、他の自治体が導入しやすくなるメリットもあるとみる。実際、石川県白山市が12月中の制度開始を目指している。近隣自治体が後に続けば、転居しても同じサービスが期待できる。
金沢市にとって導入への転機になったのは、昨年7月、「SDGs未来都市」のモデル事業に選ばれたこと。行動目標の一つ、「LGBTフレンドリーなまちづくり」を進めるのに必要と考え、昨年12月、山野之義市長が議会で導入検討を表明した。
検討会を立ち上げ、識者や弁護士らへのヒアリングを重ねて基本方針案を固めた。パブリックコメントを募ると、「行政が認めてくれるのは心強い」など好意的な意見が多く、橋爪さんは「導入の後押しになった」と振り返る。
同性カップルに限らず、一方または双方が性的少数者のカップルや、事実婚のカップルも利用できるようにするなど、先行例を参考に使いやすい制度づくりを心がけたという。
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行政が動くことで、変化は生まれる。
「自信を持って言うのはいいこと。応援してる」
第1号の制度利用者となって、報道陣に対応した翌日、小室さんは仕入れ先から祝福の言葉とともに花束を受け取ったという。「一番温かい言葉だった」
パートナーと認められることで「当事者はもちろん、家族や友人も喜んでくれる」と岡田さん。制度ができて幸せになる人が増えることはあっても、不幸せになる人はいないはず。そう思うからこそ、さらなる広がりを期待する。
日本では制度に法的な効力はなく、同性婚の議論も進まない。岡田さんは「ここがスタートライン。今後のためにも、当事者の姿が見えることが大切。声をあげていかないと」(竹田和博)

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