走り伝える先生 「障害児を学校に行かせないのは問題」
走ることは「人生そのもの」。27日の東京パラリンピック陸上男子100メートル(上肢障害T47)に出場したニジェールのイブラヒム・ダヤブーは言った。つらいことがあっても前に進んできた。
13歳の時、おもちゃだと思ってつかんだものが手投げ弾だった。手の中で爆発し、左手を失った。「とても悲しいことだった。でもそれがなぜ起きたのかなんてわからない。神様が決めたこと」
陸上を始めたのは、事故後に地域で陸上大会があったのがきっかけだったが、「走っているときは全てを忘れられる」。リオデジャネイロ・パラリンピックに続き、26歳で2大会連続出場。24日の開会式では旗手を務めた。
西アフリカに位置するニジェールは、アルジェリアやナイジェリアなど7カ国に囲まれる内陸国で国土の多くが砂漠に覆われる。国連開発計画が所得や教育などを元に算出する「人間開発指数」(2020年)は世界最下位の189位だ。増える人口に、不安定な食料需給事情などから、世界最貧国の一つと言われる。紛争や武装勢力の脅威に、今もさらされている。
ダヤブーは公立小学校の先生という一面も持つ。義務教育なのに、障害のある生徒を見かけることはないという。「ニジェールでは子どもに障害があることを恥ずかしく感じる親が多く、子どもを学校に行かせたくないのだと思う。とても問題」。走る姿を見せることで「障害者は隠される存在でも差別される存在でもないということを伝えたい」。
小さいころ、自らも手がないことで友達からいじめられた経験がある。その度に両親は「気にするんじゃない」と励まし、友人には差別しないよう伝えてくれた。「それがあったから、私は幸せになれたんです」
学校では子どもたちに、こう語りかけている。「障害者を差別しないで。私たちはがんばれるし、健常者は障害者を勇気づけ、助ける役割をもっている」
試合は予選敗退。国民に申し訳ないと何度も口にしたあと、言った。「東京で温かく受け入れてもらったこと、ここで見た文明やアスリートの姿を、また子どもたちに伝えたい」。みやげ話が山ほどできた。(藤田絢子)
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