東京パラがアフリカ変える? 異例の無料放送「自分も」

遠田寛生
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 3回目の試技が終わると、関係者が座る会場に向かって何度も頭を下げた。初めて立てた大舞台への感謝の表れだった。

 ガーナのエマニュエルニーテティ・オク(30)は28日、東京パラリンピックパワーリフティング男子72キロ級(運動機能障害)に出場した。2回失敗したものの、1回目で160キロを持ち上げて7位に入った。

 「持てる力を全て出した。結果に満足している。ここで競うことが夢だった。たどり着けて光栄だ」

 小さい頃から体を鍛えるのが好きだった。ガーナの小さな街で城の警備の仕事をしていた2013年、事故で左足の太ももを銃弾が貫通した。傷は深く、切断することになった。

 何げなしにテレビを見ていたある日、16年リオデジャネイロ大会の映像が流れた。障害がありながら躍動する選手たちを見て、自分もやりたいと思った。友人からパワーリフティングを紹介されると気に入り、世界一を目指すことを決めた。

 メダルには届かなかったが、意義のある「旅」になったと自覚している。

 ガーナの人口は約3042万人(19年外務省)。国際人権団体「ヒューマンライツ・ウォッチ」の12年調べでは、同国に住む障害がある人は約500万人だという。先進国の割合よりも多い。

 04年アテネ大会でパラリンピックに初めてガーナ選手が出場してから、国内では徐々に障害がある人への理解は進んできた。ただ課題もまだ多く残っているとオクは言う。

 「アフリカでもそうだが、ガーナでは障害がある人はまだ家や学校のクラスに閉じこもっていることが多い。活動にあまり参加したがらない。そんな人たちの気持ちを何とか変えたい。学校を回って、できるスポーツがあることを教え、励ましてもいる」

 東京大会はガーナやアフリカ全体にとって、転機になりえると見ている。今回はサハラ砂漠以南の49の国・地域で、開会式と閉会式が無料で生放送される。加えてアフリカ選手の活躍をまとめた52分間の番組が連日無料で放送されている。これまでは有料放送しかなく、扱いも国・地域によって差があった。

 番組製作は、障害がある人が排除されない社会を目指す団体「グローバル・ディスアビリティー・イノベーション・ハブ」や、英ラフバラ大などのプロジェクトの一環だ。アフリカに根強くある障害がある人への間違った認識を変えるために取り組んでいる。

 アフリカへの影響を考えた国際パラリンピック委員会(IPC)は無料での放送を許可した。番組は英語やフランス語、ポルトガル語で報じられており、IPCの見立てでは、アフリカ全体で2億5千万人以上の視聴が期待されている。

 オクは言う。

 「番組によって、パラリンピアンが話題になる。アフリカやガーナに存在する障害がある人への偏見をなくす闘いに大きく貢献すると思う。自分もその活動の一部になれたらいいし、なりたいというモチベーションも生まれている」(遠田寛生)