家でも学校でもない、子どもの居場所 宇部にオープン
山口県宇部市中心部の常盤通り沿いに、赤ちゃんから大人まであらゆる世代が集える施設ができた。めざすのは家でも学校でもない、子どものための「サードプレース」(第三の居場所)だ。
施設は「キッズラップ『子ども第三の居場所』山口宇部拠点」。延べ床面積約300平方メートルで、1階はカフェや遊び場、本を介して人との交流を深めるミニ図書室「まちライブラリー」があり、誰でも利用できる。生活空間や学習環境を整えた2階では、さまざまな面で支援を必要とする子を大人が見守り、将来の自立に向けて寄り添う。
宇部市上町の金子小児科が設立した一般社団法人「キッズラップ」が運営。学校や家庭以外の場で子どもに教育や体験の機会を提供しようと日本財団(東京都)が2016年から全国で進める「子ども第三の居場所」事業で、キッズラップが宇部市の協力を得て県内で初めて受託した。日本財団によると今年度末までに全国に98の拠点ができる。
29日の開所式には、子ども支援に取り組む関係者や子育て家庭など約50人が参加。篠崎圭二市長は「行政では対応しきれていない問題が多くある。ここを拠点に民間やさまざまな団体と子ども支援に力を入れる」と話した。1階の利用時間は土日午前11時から午後7時。問い合わせは(0836・39・0080)へ。(太田原奈都乃)
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キッズラップ代表理事の金子小児科・金子淳子院長(56)のもとには、病気だけでなく、さまざまな問題に直面した子どもや親が訪れる。親の仕事が安定せず生活が苦しい、生活習慣や基礎学力が身についていない、登校できない――。「診察室の中だけでは解決しきれない」と、もどかしさを感じてきた。
2017年夏、食を通じて支援しようと、市内で子ども食堂「みんにゃ食堂」を始めた。月2回、栄養士が腕を振るった食事を提供。子育て家庭だけでなくひとり暮らしの高齢者や仕事帰りの大人などあらゆる年代の人で食卓を囲む。
始めてまもなく「食べ物支援だけじゃだめだ、と気づいた」。人は食事だけでは生きていけない。経済的、社会的に孤立している子どもにとって、さまざまな人と出会い、幅広い体験を積むことができる場がまちの中に必要だと感じた。
後悔もある。10年近く前から診察する子がいる。昔から読み書きや勉強が苦手。だんだん不登校になり、いま、進路の選択肢はせまい。「10年前の私の手の中に、支援の場所を持っていたら違っただろうか」
コロナ禍の外出控えから医院を訪れる親子が減った。みんにゃ食堂も感染対策のため、一時期は弁当配布に切り替えた。「子どもが置かれている状況が見えづらくなった」という。
子どもたちを地域の人と包みこむよう育んでいきたい、という思いで団体名は「キッズラップ」とした。
どうしたら、そんな居場所に育っていくか。「大人も地域のおじいちゃんおばあちゃんも、みんな入ってきていい。そうしたら『交差点』のような場所にできる」。「何かしたいと思っちょったんよ」と言ってくれた地元住民もいる。「宇部を『ここで生まれてよかった』『ここで子育てしたい』と思えるまちにしたい」
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