岩手県内の老人福祉施設 3割が浸水想定区域に

大西英正
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 この夏、異例の長雨により列島各地で被害が相次いだ。静岡県熱海市では大規模な土石流で多くの犠牲者が出た。災害時の避難に時間を要する老人福祉施設について朝日新聞が調べたところ、岩手県内で少なくとも309カ所が洪水浸水想定区域にあった。老人福祉施設は県内に約1千カ所あるとみられ、3割ほどが危険性の高い場所に立地していることになる。土砂災害警戒区域には同施設が124カ所あった。

 岩泉町で関連死を含めて26人が亡くなった台風10号の豪雨災害から30日で5年になる。朝日新聞は8月、県内の全33市町村にアンケートし、両区域にある施設数のほか、課題や取り組みを探った。

 2016年8月の台風で岩泉町の小本(おもと)川が氾濫(はんらん)し、高齢者グループホーム「楽ん楽ん」が天井近くまで浸水。入居者9人全員が死亡した。国は水防法を改正し、社会福祉施設や学校、病院など「要配慮者利用施設」に避難計画の策定や避難訓練を義務づけた。

 アンケートによると、浸水想定区域にある309カ所のうち245カ所(8割弱)、土砂災害警戒区域にある124カ所のうち65カ所(5割超)で避難計画が策定済みだった。施設による訓練の実施を市町村が確認したのは、浸水想定区域で159カ所(5割超)、土砂災害警戒区域で39カ所(3割超)だった。

 実際に災害が起きた時、迅速、円滑に避難できるかが最も重要だが、課題は多く、選択肢を設けて二つまで選んでもらった。その結果、「施設利用者を避難させるのに十分なスタッフ確保」(19自治体)が最多で、「避難に踏み切るタイミング」「避難先の確保」(ともに14自治体)、「避難させるための移動手段」(11自治体)と続いた。

 自由記述欄には「高齢化に伴って要支援者は増える。支援体制の確立が困難となる懸念がある」(久慈市)という指摘があった。また、国に対して「円滑に避難できる空間、支援体制について経費などのサポート」(田野畑村)、「訓練や避難で成功した事例の共有」(一関市)といった要望も出された。

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 お年寄りなど「災害弱者」の命をどう守るか。自治体や施設は試行錯誤を重ねている。

 5年前、甚大な被害に遭った岩泉町。危機管理は総務課内の兼務事務だったが、18年4月から危機管理課として組織を独立させ、専任職員を置いた。部門を統括する危機管理監のポストも設けた。町はアンケートの自由記述欄に「(施設の)スタッフが事前にリスクを認識し、有事の際の行動を確立しておくことが必要」と回答した。いざという時におのおのが判断できる力を養う、いわば防災力のソフトパワーを身につけていく考えだ。

 介護老人保健施設「ふれんどりー岩泉」は、高齢者グループホーム「楽ん楽ん」の隣地に立つ。入所者の一部は16年の台風の際、日中のうちに避難所へ避難した。ただ、移動に伴う危険性を考慮し、現在入所する82人はすべて最上階(3階)に避難することになった。ふれんどりー岩泉の三上昇勝・総務部長は「毎年数人、防災士の資格を取るようにしている」と話す。

 花巻市はリスクの伝達と、スムーズに避難先に移動してもらう手段の確保に力を注ぐ。市内にある50の要配慮者利用施設に関し、7月までに電話の連絡先を取りまとめた。避難情報をエリアメール、防災ラジオ、広報車などで伝えるほか、「防災以外の課の応援も得て、各施設に手分けして電話連絡する態勢を整えた」(担当者)という。

 また、浸水想定区域や土砂災害警戒区域にある老人福祉施設の中で、規模が大きくリスクの高い6カ所について、市のバスを手配する段取りも済ませた。

 葛巻町は浸水想定区域内に50人が入所する養護老人ホームがある。町は約500メートル離れた老人福祉センターを鉄筋コンクリート造りの施設に改築し、老人ホーム利用者の避難場所にする計画を進めている。来年8月ごろの完成をめざす。

 老人福祉施設など全3カ所が浸水想定区域、土砂災害警戒区域の外に立地する田野畑村は、施設外で暮らす人々に目を向ける。村の高齢化率は43・4%で、県内で5番目の高さ。地元自治会と協力して要配慮者の台帳を作り、想定、警戒区域外に立地する3施設に避難するよう促している。村の担当者は「自宅で生活しているが助けを必要とする高齢者も多いので、各施設を福祉避難所と位置づけ、17年1月に協定を結んだ」と説明している。(大西英正)

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 洪水浸水想定区域は水防法に基づき、降雨により河川が氾濫した場合に浸水が想定される区域について、河川を管理する国土交通大臣や都道府県知事が指定する。土砂災害警戒区域は土砂災害防止法に基づき、土砂災害が起こったときに住民の生命や身体に危害が生じるおそれがある区域について、都道府県知事が指定する。

 いずれの区域も市区町村はハザードマップを作り、住民らに周知しなければならない。