強権振りかざす現会長と対照的 清廉潔白めざしたロゲ氏

有料会員記事

編集委員・稲垣康介

 2013年、国際オリンピック委員会(IOC)総会で東京が2020年大会の開催都市に選ばれたとき、「TOKYO 2020」と書かれたカードを掲げ、甲高い声で「トーキョー」と宣言した人。多くの日本人は、そう記憶しているだろう。この年までIOC会長を12年間務めたジャック・ロゲ氏が亡くなった。

 ベルギー出身の整形外科医で、後を継いだバッハ会長とは1991年にIOC委員に就任した「同期」。しかしそのリーダー像は、バッハ氏と対照的だった。

 2001年7月、モスクワでIOC会長に就任したときの抱負は、清廉潔白なイメージそのものだった。

 「五輪期間中は選手村に泊まりたい。ドーピング撲滅を最優先し、親が子どもを安心して送り出せるスポーツ界にしたい」

 21年間会長を務めた前任者フアン・アントニオ・サマランチ氏が国賓級の厚遇を好んだのとは対照的に映った。02年ソルトレークシティー冬季五輪招致を巡るIOC委員買収スキャンダルで失墜したIOCのイメージ回復には、最適な人選といえた。

「国旗より五輪旗掲げる表彰式」望んだ願い

 在任中のインタビューでは、決して答えをはぐらかしたりせず、丁寧に答えてくれたことが思い出深い。

 五輪憲章で「個人種目または団体種目での選手間の競争であり、国家間の競争ではない」と記しながら、実際は国旗掲揚があり、国家間の争いと化しているのは矛盾ではないか。そう問うと、「私が自由に選択できるなら、国旗を掲げる表彰式より、五輪旗を掲げる方を選ぶ。ただ、残念ながら国旗掲揚をやめたら、発展途上国のスポーツに対する投資の多くが消える。それが現実だ」と答えた。

 1990年代に旧ソ連ウクライナの大統領と会談した際のエピソードを引き、「大統領は明快に言った。陸上棒高跳びのセルゲイ・ブブカの活躍は、経費をかけて派遣した140人の大使より、よほどウクライナの知名度を上げたと」。

 スポーツの尊厳を保つことに心を砕いた。「アスリートがすべて聖人君子とは思わない」。あえて性悪説に立ち、ドーピングに立ち向かった。陽性によるメダル剝奪(はくだつ)者が多数出ようが「五輪のイメージダウンではなく、自浄作用が働いている証し」と一貫していた。組織の浄化にも取り組んだ。会長選を争った金雲竜氏(韓国)ら倫理規定に違反した委員は、大物でも例外なくIOCから放逐した。収入源の柱である放送権料の相場を引き上げ、1期目を終えた09年時点で、IOCの資産は就任時の4倍を超す4億5500万ドル(約500億円)。リーマン・ショックの逆風にめげなかった。

 五輪の肥大化に歯止めをかけ…

この記事は有料会員記事です。残り832文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【10/25まで】スタンダードコース(月額1,980円)が今なら2カ月間無料!詳しくはこちら