京の祇園で「ちこちこ」 美術家・山口晃の愛する落書き

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田中ゑれ奈
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 山口晃といえば、日本美術の伝統の独自解釈、批評性の中ににじむユーモア、そして大画面を埋める細密描写。東京パラリンピックの公式アートポスターも手がけた人気美術家による「小さい仕事」の粋を集めた個展が開かれている。細部へのこだわりは作品をはみ出し、空間に数々の「いたずら」をしかける。

壁にアクリル、隅に加湿器

 舞台は京都・祇園の老舗和菓子店「鍵善良房」が今年1月に開いた小さな美術館。自然光が陰影をつくる1階展示室では、鍵善が所蔵する昭和期の木工芸家・黒田辰秋の作品を使って、山口がインスタレーションを構成した。

 展示ケースの中に作品が恭しく鎮座していると思いきや、随所に意表を突くしつらえが。螺鈿(らでん)細工の茶器はふたと本体がひっくり返され、アクリル板の台を挟んで上下に並ぶ。拭漆のたばこ入れとマッチ入れは、逆さにした展示台の上に無造作に置いてある。山口がデザインした鍵善の紙袋原画「好きなカフエーのおじいさん」にちなむ、たばこ道具で子供が遊んでいるイメージだ。

 よく見ると、作品の脇や壁にはところどころ、透明のアクリル板が取り付けられている。展示ケースと合わせ鏡の要領で作品を映し、風に揺れては空間にやわらかな動きをもたらす。

 こうした細かな仕掛けは2階の展示室にも。五木寛之の新聞連載小説「親鸞」3部作の挿画原画を紹介するコーナーには、小型の加湿器が2台、ひっそり並んでいる。プラグの抜けた機械が作品保護に役立つわけもなく、これは親鸞が修行した比叡山からの連想で加湿器をケーブルカーに見立てた、山口の「いたずら」だ。

 照明の一つには穴の開いた銀色の耐熱シートがかぶせられ、五山の送り火を描いた作品と後ろの壁に、火花や星空のような光の粒を投げかける。展示室の隅にも消火器の黒いカバーを中心に、とある遊びが施されている。素通りしかねないさりげなさで、気付いた人だけをニヤリとさせる。

記事後半では山口晃さんが、制作の原点にある「落書き」の楽しみや、パラリンピックのポスター制作をめぐる葛藤について語ります。

 圧巻は、黒田のくずきり用器…

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