発足したてのデジタル庁、脱炭素社会の実現…首相肝いり政策の行方は

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平井恵美、中島嘉克 長崎潤一郎 江口悟 初見翔、山本恭介 久永隆一、滝沢卓
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 菅内閣が退陣することになった。約1年前、行政の縦割りや既得権益、前例主義の打破を掲げて「国民のために働く」と意気込んだ菅義偉首相だが、矢継ぎ早に打ち出した肝いりの政策のなかには、実現への道筋がついていないものも少なくない。

強力な後ろ盾を失ったデジタル庁

 菅義偉首相が昨年9月の自民党総裁選で目玉に掲げた行政の「縦割り打破」。その象徴が、各省庁がバラバラに進めてきたIT施策を一元化するデジタル庁だ。「スマートフォン一つで60秒以内にあらゆる行政手続きをできるようにする」ことなどを目指している。

 行政のデジタル化の遅れは、10万円給付金のオンライン申請での混乱や、接触確認アプリの不具合などコロナ禍で大きく露呈した。

 各省庁でデジタル化の優先順位は低く、いまだに様々な行政手続きにははんこが必要。政府のデジタル戦略を担う内閣官房のIT総合戦略室には予算がほとんどなく、ほかの省庁への発言力もない。そんな状況を変えるため、あらゆるデジタル関連の予算を一つの庁に集約させる荒業が実現したのは、首相の肝いり案件だったことが大きい。

 しかし、今月1日の発足に至る道のりは、ドタバタ続きだった。庁創設を含むデジタル改革関連法案は突貫工事でつくられ、今年の通常国会提出後に多くの誤りが見つかった。事務方トップの人事も、当初検討していた米マサチューセッツ工科大(MIT)メディアラボ元所長の伊藤穣一(じょういち)氏の起用を8月に撤回するなど最後まで決まらなかった。

 混乱を乗り越えて発足を迎えた今月1日、菅首相は式典で「行政のみならず、我が国全体を作り変えるくらいの気持ちで知恵を絞っていただきたい」とあいさつした。そのわずか2日後、総裁選不出馬の意向を明らかにした。

 平井卓也デジタル相はデジタル庁について「菅総理のバックアップがあったから、省庁横断で強い力を持つ役所ができた」としつつ、「政治状況に左右されずに、どなたの手によっても前に進んでいくものであると考えている」と語る。しかし、強力な後ろ盾を失い、期待される役割を果たせるかは見通せない状況だ。(平井恵美、中島嘉克)

政治主導で押し切った「脱炭素」

 「脱炭素」も看板政策の一つだった。菅首相は昨年10月の所信表明演説で、2050年に温室効果ガス排出を実質ゼロにする脱炭素社会の実現を宣言した。経済と環境を好循環させるとし、2兆円の基金創設を決めた。水素や蓄電池などへの投資を促し、経済成長につなげようとした。

 今年4月の米主催の気候変動サミットでは30年度の温室効果ガスを13年度比で46%削減するとした。それまでの目標を7割近く引き上げる意欲的なものだ。産業界の負担などから経済産業省は慎重だったが政治主導で押し切った。

 梶山弘志経産相は3日の会見で、菅首相の退任による影響を問われ、「政権が変わろうとも国としての約束ですから対応していく必要がある」と述べた。

 脱炭素社会の実現には、再生可能エネルギーの大量導入や石炭火力発電の縮小など、電源構成の見直しが欠かせない。3日に意見公募が始まったエネルギー基本計画の改定案では、再生エネについて「最優先の原則のもとで最大限の導入に取り組む」とした。自民党の一部議員や大手電力が求めていた原発の新増設やリプレース(建て替え)は、明記を見送った。

 菅政権では、河野太郎行政改革相や小泉進次郎環境相が、再生エネの普及に前向きだった。小泉環境相は政府・与党内で多くの抵抗があったと明かし、「総理のぶれないリーダーシップがなければ絶対にできなかった。グリーンとデジタルは、これからどの政権ができても最重要課題として位置づけられる。その基盤をつくったのが菅総理だ」と述べた。首相が退任しても、河野氏や小泉氏は普及を引き続き後押ししていくとみられる。

 政府は太陽光発電の普及や省エネの徹底などに取り組むが、政策の裏付けは十分とはいえない。国際公約の達成の道筋が見えるのはこれからだ。(長崎潤一郎)

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 昨年9月の就任後、菅義偉首…

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