萩原朔太郎賞に元日経新聞記者 過去と決別、農業と詩にかける決意

編集委員・小泉信一
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 「詩集は妻と子に贈ったもので感謝しています」。現代最高の詩人に与えられるといわれる「萩原朔太郎賞」(前橋市など主催)に自身の詩集が選ばれた農家で詩人の岸田将幸(まさゆき)さん(42)=愛媛県西条市=は3日、関係者を通じてコメントを発表した。そこには、詩作に賭ける並々ならぬ決意と覚悟がうかがえる。

 賞を主催する前橋市によると、岸田さんは2005年に日本経済新聞社に入社。東京本社文化部では文芸担当の記者だった。

 10年には詩集「〈孤絶―角〉」で高見順賞、15年には「亀裂のオントロギー」で鮎川信夫賞をそれぞれ受賞している。16年に新聞社を退職。故郷の西条市に戻り、17年から新規農家としてアスパラガスを栽培している。

 今回受賞した「風の領分」(112ページ)は帰郷後に書いた詩集だ。4編から成り立っており、新聞記者だった過去の自分とは決別して農業を営む決意や、家族への思いなどが鋭い観察眼と柔らかな筆致でつづられている。

 選考委員で詩人の吉増剛造さん(82)は「『萩原朔太郎』という近代詩の第一人者の名を冠した賞にふさわしい作品。審査では(選考委員同士による)血が出るような苛烈(かれつ)な話し合いが延々と続いたが、最終的に岸田さんの可能性に選考委員は賭けた」と選考の過程を明らかにした。

 同じく選考委員で詩人の佐々木幹郎さん(73)は、岸田さんから以前取材を受けたことがあるという。「このような形で、再び岸田さんと触れ合うことができ、とてもうれしい。新しい生活を肯定する中で詩人として言葉を探している。心の底から自分を変えていこうという決意すらうかがえる」などと話した。

 美術評論家で詩人の建畠晢(あきら)さん(74)は「詩人として飛躍する余地は十分ある。今後の可能性に期待したい」と語った。

 贈呈式は前橋文学館(前橋市千代田町3丁目)で10月30日。式典のあと、岸田さんによる記念講演が行われる予定だ。(編集委員・小泉信一