川端康成が「みづうみ」執筆の軽井沢の別荘取り壊しへ 町が保存断念

滝沢隆史
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 ノーベル文学賞作家の川端康成長野県軽井沢町に所有していた別荘が、取り壊されることになった。移築保存を検討していた藤巻進町長が6日、町議会で別荘を所有する神奈川県内の不動産会社との交渉が決裂したことを報告し、保存を断念する意向を示した。町によると、すでに解体作業が始まっているという。

 この日の町議会社会委員会で藤巻町長が説明した。藤巻町長によると、2日に町長自ら不動産会社に電話し、解体費用を町が負担して移築保存することなどを提案。だが、関連予算の議決や解体までに数カ月かかる見込みであることから、「取得のために借り入れた金融機関への金利の支払いがあり、悠長に待てない。スピード感が足りない」との返答があったという。

 出席した議員からは「熱意が足りない」との意見も出たが、藤巻町長は「町が金利の負担までは難しい。(不動産会社は)歴史的、文化的な価値がどうこうというよりも、ビジネスとしての対応だった。どうにもならなかった」と答弁。取材に対し「町内でも一級の別荘だったが、大変残念。解体の情報を事前につかむのは難しく、時間がなかった」と話した。

 別荘は窓枠が外されるなど、1日からすでに解体作業が始まっているという。町は不動産会社の許可を得て、建物内部を写真撮影して記録として残す考えだ。

 軽井沢文化遺産保存会などによると、この別荘は川端が町内に2軒目の別荘として1940年ごろ、外国人から購入した。川端は軽井沢を舞台にした小説や随筆を多く残しており、この別荘で小説「みづうみ」などを執筆したとされる。川端の遺族が今年に亡くなり、売却されたという。

 別荘は木造2階建てで、斜面を利用した地下1階もある。同保存会長で日本女子大名誉教授の増淵宗一さんは「地形を生かしたおもしろい構造で、石積みの暖炉の一部を建物の外壁に出すなど、軽井沢らしい特徴を持った貴重な文化遺産。ノーベル賞作家の創作の場が無くなってしまえば本当に残念」と指摘。「不動産会社が負担する金利分を有志らで一時的に立て替え、翻意してもらえないか交渉したい」と話した。

 この別荘を巡っては、同保存会など複数の市民団体が8月、町議会に保存を求める請願を提出。地元の観光協会なども保存を求めていた。別荘を所有する不動産会社が9月中に取り壊す意向を示していたため、町が早急に業者と交渉できるよう、請願は1日までに取り下げられていた。(滝沢隆史)

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