マスクがつなぐ二つの祖国 開発者は半世紀前ベトナムからやってきた

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平山亜理
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 顔に密着するシリコーン製のマスクから細いチューブがスマホほどの大きさの箱につながる。ここから取り入れた空気は浄化され、きれいな空気が鼻に届けられる。

 新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない中、人工呼吸器の専門家、新田一福さん(73)が開発した空気清浄機能を備えたマスクだ。ウイルスや花粉、微小粒子状物質PM2・5を取り除くことができる。

 開発のきっかけは昨年春、中国でマスクをつけて運動をしていた子どもが亡くなったニュースに接したことだ。日本でも日常生活にマスクは欠かせないが、運動中や暑い夏には危険が伴う。

 「コロナウイルスは空気感染する」。そう考える新田さんは、マスクの重要性を認識すると同時に、快適さを追い求めた。どうすればより安全な空気を楽に吸えるか。仕事や運動のときにも使えるのか。

 頭からすっぽりかぶる宇宙服のようなものは安全かもしれないが、日常生活に支障を来す。普通のマスクでは、顔との隙間があると感染リスクが高まる。「感染対策をしつつ、経済活動も続けられるようにしたい」と考えた結果、たどり着いたのが、マスクの中に十分な量の空気を送り込み、鼻の前に安全な空気のカーテンを作る仕組みだ。ウイルスなどは「HEPA(ヘパ)フィルター」で除去し、フィルター裏の光触媒で不活化する。「ウイルスをゼロにはできないが、99%は濾過(ろか)できる」

 発売に先立ってフェイスブックで動画を紹介したところ、ベトナムや米国から注文や問い合わせが相次ぐ。吸う空気を濾過するタイプは約2万5千円、吐く息も濾過する型は約3万5千円。感染リスクの高い医療や介護の現場のほか、接客があるレストランやデパートなどでの需要も見込む。デザイン面などでも改良を進めていく。収益の一部は医療従事者に寄付する予定だ。

 新田さんは1984年、医療機器メーカー「メトラン」を創設し、埼玉県川口市を拠点に様々な人工呼吸器をつくってきた。特に未熟児用で定評がある。

 「かつては死亡率60%以上といわれた超未熟児の生存率を80%まで高めた」と評された。2012年には「ものづくり日本大賞」経済産業大臣賞を受けた。世界各国に輸出され、子どもたちの命を救っている。

 現在の課題は、目の前のコロナ禍への対応だ。「多くの人の命を救いたい」と語る新田さんには、もう一つの名前がある。

 トラン・ゴック・フック。1968年に留学生として来日し、その後日本国籍を得たベトナム人だ。

半世紀前に来日したフックさんは祖国に帰ろうとしましたが戦争でかないませんでした。記事後半では半世紀にわたるフックさんの歩みやベトナム人との関わり、日本社会への思いを紹介します。

 新生児向けの人工呼吸器で知…

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