障害者の逸失利益「ゼロ」のケースも 識者「司法判断に変化の兆し」

米田優人
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 障害者が将来得られたはずの「逸失利益」をどのように算出するのか。損害賠償に詳しい立命館大の吉村良一名誉教授(民法)は、「全労働者の平均賃金の8割が相当」とした10日の広島高裁判決の判断を「裁判所の変化を感じさせる内容で、意味がある判決だ」と評価した。

 吉村教授によると、就労していない子どもの場合、全労働者の平均賃金をもとに逸失利益を算出する。だが、障害がある場合は健常者より低い金額になることが多く、重い障害であれば就労の可能性がないとして「ゼロ」と判断されることも少なくないという。

 だが、こうした裁判所の判断にも近年、変化の兆しがみられるという。

 重度の知的障害がある少年(当時15)が福祉施設から行方不明になって死亡した事故をめぐり、両親が施設側に損害賠償を求めた訴訟では、東京地裁が2019年3月、「障害者雇用を積極的に推進する大きな転換期」という社会情勢もふまえ、19歳以下の男女の平均賃金と同額をもらい続けたと想定して少年の逸失利益を算出。請求の約3割にあたる約2200万円の逸失利益を認めた。

 広島高裁判決も「近年の障害者の雇用状況や企業における支援の実例、ITを活用した就労支援機器の普及などの状況を踏まえると、今後は今まで以上に健常者と同様の賃金条件で就労できる社会の実現が見込まれる」と指摘。一審・山口地裁下関支部判決よりも踏み込んだ表現で、吉村教授は「高裁レベルで、障害者の雇用をめぐる社会の動向を具体的に示したのは前進だ」と話した。

 一方で、広島高裁判決は「全労働者の平均賃金と同等にすべきだ」とする女性側の訴えを退けた。視覚障害によって働く能力が相当程度失われることは避けられないことや、健常者と同額の収入を得られるような社会状況が確立しているとまでは言えないことを理由に挙げた。吉村教授は「(障害者が)周囲のサポートを受けながら健常者と同じ水準で職業生活をできる可能性は十分ある。裁判所はさらに踏み込んで、全労働者の平均賃金逸失利益を算出するべきだ」とも指摘した。(米田優人)