「用意した質問は捨てる」 顔を明かさない伝説のデザイナーを映画に

有料会員記事ファッション

聞き手・長谷川陽子 編集委員・高橋牧子
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2009年春夏のパリのショー=大原広和氏撮影
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 あらゆる対面取材を断り、公の場で一切顔を明かさない。ベールに包まれたトップデザイナー、マルタン・マルジェラの素顔に迫るドキュメンタリー映画「マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”」が、17日から公開される。ドイツ出身のライナー・ホルツェマー監督は、難攻不落といわれたマルジェラの信頼を得て、製作にこぎつけた。約40日をかけたという撮影の舞台裏を、オンライン取材で聞いた。

 ――マルジェラはなぜ取材を受けたのでしょう

 何にもおいて私を信頼してくれた。それに、彼がファッション業界を離れて10年以上経ったことは大きかったです。彼はこの業界に苦しんでいて、傷を癒やすためにも離れて過ごす時間が必要だった。いいタイミングでアプローチできたと思います。

 彼が安心して参加できる企画だったこともあるでしょうね。顔を公にしないのもそうですし、製作そのものにも彼は関わっています。誰を取材し、どのコレクションをフィーチャーするのか。彼の伝記的な部分も含めてどの要素を映画に入れるのか。すべて一緒に決めていきました。

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ライナー・ホルツェマー監督

 ――何か世の中に訴えたいことがマルジェラにあったからではないですか

 それが主な理由ではなかったと思うけど、表現したい思いはいくつかあったかもしれませんね。彼にとって、この映画をつくる一番のモチベーションになっていると私が感じたのは、若いデザイナーを励ましたいという思いです。ちょうど映画の製作中にも新しい世代のデザイナーが出てきていて、彼らはお金を稼ぐことや商業性にあまり興味がなく、クリエーティビティーを追いかけている。そういう若い人を励ましたい、自分はこうやってものづくりをしたんだということを、ガイドのように見てもらえる作品にしたいと思っていたのではないでしょうか。

 マルジェラのコピーのような作品が市場に出回っていることに彼自身は怒りを感じていたわけではありませんが、マルタンの作品をよく知るジャーナリストなどからすると、本人が何か言えばいいのにと思っている人もいたようです。オリジナルのアイデアはマルジェラから来ているんだと、この作品を通して見せることができたのはよかったと思っているかもしれないですね。

 ときどき、今回の映画が、日本で2019年に公開された「We Margiela マルジェラと私たち」という映画に対するマルジェラのレスポンスなのではないかと言われるのですが、彼にも私にもそうした意図は全くありません。

 ――彼は劇中でも顔を出していませんが、交渉はしたのですか

 彼がこの映画の製作に賛成してくれたときから、匿名性を保って作りたいと言っていましたし、特に私のほうから顔を出すよう頼むことはありませんでした。普段の彼はもちろん顔を隠してはいませんが、劇中やジャーナリストに対しては匿名性を保ちたいと思っている。映画に出てくる回顧展の準備作業でも、チームの人たちと普通に接してはいますが、周りの人は彼の写真は撮らない。それは暗黙の了解のようでした。

 ――彼はどんな人ですか

記事の後半では、監督が経験からつかんだ取材の極意を語るほか、パリ・コレを長年見てきた編集委員が、なぜマルジェラがこれほどまでに評価されたのか、解説します。

 話しやすいし、すてきな人柄…

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