11年越しの夢の旅館、実現へあと一歩 設計は憧れの藤森照信さん!

依光隆明
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 長野県茅野市出身の建築家、藤森照信さん(74)にほれ込んだ女性が11年前、思い切って「夢の旅館」の設計を依頼した。3年後、藤森さんから「土地が決まったら設計します」と返事。そして今年、最高の土地が見つかり、藤森さんが設計をスタートした。「熱意だけしかない私に応えてくれた。すごくわくわくしています」

 富士見町に住む山越典子さん(40)。藤森さんを知ったのは20代半ばだった。藤森さんは日本を代表する建築史家としても知られ、土や植物など自然を生かした独特の設計思想で知られている。地上6メートルの茶室「高過庵」など藤森さんが設計した建築物に山越さんは心を揺さぶられた。以来、「追っかけになった」と明かす。

 東京でアパレルの仕事をしていた時、自然食に目を向け、山越さんは1998年に安曇野市へ移る。2010年、茅野市であった藤森さんのワークショップに参加。終了後、「ファンレターと企画書を渡して(旅館の設計を)『お願いします』と頼みました」。

 行動のきっかけは、その少し前に骨髄移植のドナーとなったことだった。人命を救う半面、ドナーの体にかかる負担も重い。

 「初めて生きる死ぬをすごく深く考えたんです。二つのことが頭に浮かびました。『宿をやりたいな』と『藤森さんが好き』です。元気で生きられているのだから一番やりたいことをやろう、と考えました」

 藤森さんの設計で宿を造ろう、そう決意したことが行動につながった。茅野市に転居して自然食の店を開き、藤森さんには「ラブレターを出し続けました」。はるか遠くだと思っていた夢が現実となったのは、ワークショップでの出会いから3年後だった。

 「私の店に藤森さんが来てくれて。『土地が決まったら設計をしましょう』と言ってくれたんです」

 富士見町に移った山越さんは宿の土地を探し続け、今年、自宅近くに最高の場所を見つけた。しだれ桜の咲く小さな丘。二段になった丘の1段目に1日1組の小さな宿を造る。藤森さんは3月に現地を視察、「初めての旅館をすばらしい場所に設計します」というメッセージを書いてくれた。

 藤森さんの設計を待ち、着工は来年5月。山越さんの夫、一範さん(35)が建築士兼大工なので、できるだけ手作りする計画にしている。資金の多くはこれから集める計画で、山越さんは「クラウドファンディングをする予定ですし、スポンサー企業も募ります。どこか、スポンサーになってくれませんか?」。

 開業予定は23年春。「知り合いでもなく、お金もなく、あるのは熱意だけでした。藤森さんには本当に感謝です」と山越さん。「どんな建物になるか、楽しみでしようがありません。11年間、夢をあきらめなくてよかった」と話している。(依光隆明)