防潮堤高の決め方、見直しを提言 「巨大化」批判を反省

編集委員・石橋英昭
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 【宮城】南海トラフ地震の発生が切迫するなか、土木学会は海岸防潮堤の高さの決め方を見直す提言をまとめた。11日に発生から10年半となった東日本大震災の被災地では、住民の意向が十分に反映されずにつくられた巨大防潮堤に批判が出た。その反省を踏まえ、従来の手法を転換。まちづくりや避難計画も考慮した複数の案から地域に選んでもらう。

 海岸工学と土木計画の研究者は2014年秋から小委員会で議論を重ね、今年6月末、「海岸防災・減災対策決定プロセス案」と技術ガイドラインの提言をまとめた。国土交通省も検討段階からかかわっており、「今後、海岸事業の参考にしたい」(同省海岸室)としている。

 従来の防潮堤の設計は、想定した高さの津波を一律に防ぎきるという考え方に基づく。だが、次に来る津波高の予測は難しい。

 新しい手法では、まず地震のパターンやマグニチュードを組み合わせ、5千通り以上のシミュレーションを実施。地域ごとに津波が発生する確率を踏まえた現状のリスク評価をし、どの海岸の整備を優先させるかを判定する。

 そのうえで、防潮堤の高さごとに、被害の軽減効果を期待できる額(便益)を計算する。便益には、背後にあるまちの将来の人口減などを加味し、津波で失われることになる人命も金額に換算して含める。

 この便益から建設費用を差し引いた額(純便益)を算出し、比較する。費用便益分析という手法だ。

 防潮堤を高くするほど被害は減るが、建設費は膨らみ、まちの景観などへの影響も出てくる。そこで、景観に配慮して高さや位置を変えた場合や、事前に施設や住宅を高台に移転した場合、避難計画を充実させ避難率が改善した場合などのケースごとに、純便益がどう変わるか検討する。

 最終的には、純便益が大きくなるようないくつかの選択肢を専門家が行政に示し、合意形成や政策決定に役立ててもらう。

 東日本大震災大津波は、東北各地で既存の防潮堤を乗り越え、破壊した。土木学会は震災の直後、①数十年から百数十年に一度の津波(L1)は防潮堤で防ぐ②東日本大震災のような最大クラスの津波(L2)は避難を軸に、ソフトとハードの組み合わせで被害を減らす――といった考えを打ち出し、国の方針となった。

 これを受け、東日本大震災の被災各県は、過去の津波の発生確率をもとに、地域ごとにL1の津波高を想定。それに従って防潮堤の復旧を進めてきた。計画された総延長432キロのうち、これまでに約8割にあたる351キロが完成。震災前を上回る10メートル以上の高さの防潮堤が新たに設けられた所もある。

 約3割の地区では地域の事情に応じて高さを下げたが、反対意見を採り入れなかった所も少なくない。海が見えなくなることで、まちの活性化が阻まれたり、守るべき民家がなくなった浜に巨大防潮堤が出現したりといった矛盾も、指摘されてきた。

 今回の提案は、こうした「L1防潮堤」の整備手法を事実上、改めるものだ。小委員会をとりまとめた多々納裕一・京大教授は「津波高を定め、それを上回る規模の施設をつくるという手法から、リスク評価に基づく総合的合意形成への転換だ」とする。

 南海トラフ地震の被害想定地域では、津波対策が急務だ。北野利一・名古屋工業大教授によると、先行して三重県南部の海岸についてシミュレーションを進めており、県や市町に順次提案してゆく考えだ。(編集委員・石橋英昭