まるでムンクの「叫び」 身近にいた将来のスター 鹿嶋市の「岩偶」

村山恵二
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 その「岩偶(がんぐう)」は昨秋、鮮烈なデビューを飾った。顔がついているようにも、人が両手をあげて踊っているようにも見える。

 茨城県鹿嶋市で発掘された。岩偶は、縄文人が岩石を削ってつくった人形だ。水戸市の県立歴史館で開かれた、縄文時代の文化を読み解く特別展のポスターや図録表紙の写真に登場した。

 三つの文化財が並んだ写真。中央に新潟県十日町市出土の国宝・火焰(かえん)型土器、右には福島県の法正尻(ほうしょうじり)遺跡から出土した国指定重要文化財・硬玉製大珠。「大物」2点と並んで左に位置したのが、鹿嶋市の文化財にすら指定されていない無名の岩偶だった。

 軽石製で高さ、幅とも約10センチ、厚さ約3・5センチ、重さ約42グラム。途中までの穴二つが人の目に、貫通した穴が口に見える。茨城県取手市は特別展に関するホームページの記事で、ムンクの「叫び」を彷彿(ほうふつ)とさせると紹介したが、同感だ。

 古代から武道の神として信仰された鹿島神宮の近くで出土した。国道51号のバイパス工事などに伴い、1980~90年代に発掘調査が行われた厨(くりや)台遺跡群の鍛冶(かじ)台遺跡で見つかった。約5千年前のものとされる。

 同遺跡群では縄文時代から近世までの建物跡、土器、青銅鏡など、多くのお宝が見つかって報道されてきたが、93年に発掘の報告書ができるまで、この岩偶の存在は関係者以外知らなかった。

 鹿嶋市内の遺跡から出土した埋蔵文化財を集めた市どきどきセンターが2003年4月にオープン。そこに展示されるようになって、一般の人々の目に触れるようになった。

 岩石で人の顔を表現した物は少なく、有名なのは長崎県原の辻遺跡から出土した弥生時代の人面石(国指定重要文化財)、秋田県の白坂遺跡から出土した「笑う岩偶」(県指定有形文化財)ぐらい。「地元びいき」と言われるかもしれないが、鹿嶋の岩偶はそれらよりかわいいと思う。

 市どきどきセンターの石橋美和子センター長によると、素材の軽石も分析しておらず、どこの石かも不明だという。「どこで作られたのか、わからない。地元で作られたのなら、複数見つかってもいいはずだが、これ一つ。よそで作られたのなら他の場所で似た物が見つかりそうだが、それもない」と話す。わからないことだらけというのも、いろんな想像が膨らむ。

 有名な文化財を見るのは楽しい。だが、メディアにも登場せず、これから人気が出そうな「新人」を探し出すのはもっと楽しい。国宝や重文と並んで写真が使われたのは、大スターとの共演者に抜擢(ばってき)された新人アイドルのようで、岩偶の秘めたスター性の高さを表していると思う。

 新型コロナウイルスの影響で、自由に遠出できる日がいつ戻ってくるかはわからない。だが、あなたの身近にある施設にも、すごいスター性を秘めたお宝がきっと眠っている。(村山恵二)

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 鹿嶋市どきどきセンター 1981年に見つかったナウマン象の牙(切歯)など、貴重な資料も多数ある。緊急事態宣言下で12日まで閉館中。通常時は午前9時~午後4時30分、土日・祝日、年末年始が休館。無料。電話は0299・84・0778。