タカラジェンヌにも親しまれたクスノキは残るか 市は「更地に」 

中野晃
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 旧宝塚ホテル(兵庫県宝塚市)の玄関前にあったクスノキの巨木が危機に直面している。地元の住民グループは残すよう求め、跡地開発を進める不動産会社もその方向で検討を進めていた。これに対し、市道拡張計画を進める市が、用地買収のためクスノキを今の場所から撤去して更地にするよう求めたためだ。

 阪急宝塚南口駅に着くと、西側に、高架の駅舎よりも背の高い巨木が目に入る。市道を挟んで、昨春で営業を終えた旧ホテルでは建物の解体工事が進む。敷地内に数本のクスノキの大木があるが、駅側に最も近い最大級の巨木が空を覆うように緑の枝葉を伸ばす。

 地元の住民の間では95年前の創業時からある樹木とされ、旧ホテルのシンボルのひとつとも言われる。

 近隣の住民らでつくる「宝塚のまち並みと文化的資産を守る会」代表の畠山保さん(71)は「宝塚市民にとって旧ホテルは成人式結婚式、音楽の発表会など人生の思い出が詰まった場所。その玄関先に立つクスノキは長年、人々にいやしを与えてきた」と話す。

 宝塚ホテルは1926(大正15)年に開業した。長年、宝塚歌劇団タカラジェンヌやOG、観劇に来たファンからも親しまれたが、老朽化で昨年6月、宝塚大劇場の西隣に移転した。旧ホテルの跡地では阪急阪神不動産が高層マンション開発計画を進める。近隣住民らにも説明を重ね、敷地に残るクスノキの大木はそのまま保存する方向で検討を進めてきた。

 市も2017年、「宝塚文化の象徴として多くの人に親しまれた建築デザイン、緑豊かなシンボルツリー」を跡地開発にいかすよう同社に求めていた。

 一方、市には旧ホテル前の市道の拡張計画がある。高度成長期の1957年に都市計画決定した総延長約4キロの「山手幹線」で、61年の計画変更で旧ホテル前の部分は道幅を18メートルにするとされた。車道部分が10メートルで、両脇にそれぞれ幅4メートルの歩道を設置する方針という。

 市によると、今年2月、測量の結果、クスノキの幹が歩道と重なりそうだと同社から報告があった。市は山手幹線の一部として約70メートル分の区間建設に向け、6月補正予算に用地買収費約1億7400万円を計上。「クスノキを現在の位置に残したまま土地を引き取ることはできない」と同社に7月に伝えたという。

 市の担当課長は「市も木は残したいと考えており、移設を検討してもらえないかとお願いしている」と話す。財政難のなかで60年前の都市計画道路の実現性を疑問視し、道幅を含めた見直しを求める市民の声もある。ただ、市は「(見直しには)一般的に数年を要する」として計画内容は変更しないとの立場だ。

 巨木の移設費は企業側の負担となる。住民らは移設に伴って枯れてしまうおそれがあると心配している。

 同社の広報担当者は「クスノキをその場に残したいと議論を進めてきたが、現段階で対応は決まっていない。近隣住民の意見も聞きながら、理解してもらえるような方向にもっていきたい」と話している。(中野晃)