南海トラフ地震「臨時情報」とは?「事前避難」って何をすればいい?

聞き手・床並浩一
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東海の防災を考える

 南海トラフ沿いで異常現象が観測され、巨大地震が起きる可能性が高まると、「臨時情報」が発表されます。発表時には、一部地域で1週間の事前避難が求められます。名古屋市防災危機管理局の三品優子主幹に詳しい説明を聞きました。

 ――南海トラフ地震の臨時情報は、どのようなものですか。

 「4種類あります。想定震源域や周辺でマグニチュード(M)6・8以上の地震が起きた場合や、震源域内のプレート境界で通常と異なる『ゆっくりすべり』と呼ばれる現象が発生している可能性がある場合に、『調査中』という臨時情報が出ます。その後、M8以上の地震が起き、後発地震が発生する可能性が平常時に比べて高まったと評価されたときに発表される情報は、『巨大地震警戒』といいます。M7以上の場合などに発表されるのが『巨大地震注意』です。警戒にも注意にも当てはまらない場合には『調査終了』と発表されます」

 「一部地域に1週間の事前避難が求められるのは、4種類あるうち『巨大地震警戒』だけです。『事前避難対象地域』で暮らす住民の皆さんに、地域外の知人・親類宅や市内の避難所への事前避難を呼びかけることになります」

 ――臨時情報が発表されても後発地震が起きない可能性もあります。

 「確かにそうですが、平常時に比べて起きる可能性が100倍高まっていることになります。南海トラフ沿いでは、過去に100~200年間隔で大規模な地震が繰り返されており、M8クラスの地震が時間差で発生したこともあります。1854年の安政東海地震(M8・6)から約32時間後には安政南海地震(M8・7)が起きています」

 ――なぜ臨時情報が発表されるようになったのですか。

 「東海地震を想定した地震予知が『いまの科学技術では難しい』と判断され、代わる仕組みとして始まりました。予知ほどの確度はありませんが、少なくとも事前に備えて行動できます。いのちを守ることにつながる仕組みだと考えています」

 「国は一昨年5月に運用を始め、名古屋市もリーフレットや公式サイトで啓発するなどしてきましたが、コロナ禍ということもあり、浸透が十分とはいえません。このままではテレビのテロップで臨時情報が流れたとき初めて目にする人が多くなり、最寄りの区役所に問い合わせが相次ぐことも危惧されます」

 ――今年の防災週間に行われた名古屋市の訓練では、臨時情報(巨大地震警戒)が想定されました。

 「震源域西側の紀伊半島沖でM8の地震が起き、臨時情報の発表後、名古屋市も含まれる東側で後発地震が起きると想定しました。市が7月に『事前避難対象地域』を設定し、運用を始めたことにあわせた初の取り組みでした」

 ――名古屋市内の事前避難対象地域は、最短96分で30センチの津波が到達するとされる港湾部ではなく、熱田、中川、港、南、緑5区の一部川沿いに設定されました。

 「今回設定した地域は津波浸水想定区域にありますが、津波による浸水ではなく、地震発生からおおむね30分以内に30センチ以上の浸水が生じる地域です。多くが伊勢湾台風で浸水した海抜ゼロメートル地帯で、地震の揺れに伴う液状化で河川堤防が沈下・損壊して川の水の流出で浸水することを想定しています。学区単位ではなく、道路と道路に挟まれた街区単位で設定しています」

 ――事前避難が求められる住民はどうすればいいのでしょうか。

 「想定震源域で地震が起きた場合、大津波警報が発表され、まずは近くの津波避難ビルなどに避難することになります。半日から1日後に大津波警報は解除され、次は臨時情報に基づいて事前避難先に身を寄せることになります」

 「この二つのステップを理解していただくことが難しく、『大津波警報で避難して無事だったのにどうして事前避難をする必要があるのか』と尋ねられることもあります。また、災害が起きる前の避難になりますので、水や食料、日用品などは各自で用意することになりますが、対象地域外のスーパーやコンビニは通常通りに営業しているため、そこで調達することができます」

 ――強固な堤防が整備されているとして、事前避難や対象地域の設定に難色を示す人もいます。

 「東日本大震災で甚大な津波被害を受け、『想定外をなくして災害に備えよう』というのが防災の基本的な考えになっています。河川堤防が補強されても、沈んだり崩れたりする可能性はゼロではありません。大切ないのちを守るためには事前にリスクを知ることが重要で、リスクがあるときちんと伝えることは行政の責務であると考えています。理解していただけるよう言葉を尽くすことが大切だと思います」

 ――事前避難対象地域で暮らす約2万4500人に理解を求めるために、どのような対策を予定されていますか。

 「制度をしっかりと理解してもらうため、臨時情報や事前避難について解説したリーフレットや、避難行動を時系列で考える『マイタイムライン』を対象地域の全世帯に配ります。コロナの感染状況によりますが、タウンミーティングや出前講座など様々な機会をとらえ、制度の疑問に答えていきたいと考えています」(聞き手・床並浩一)

 1973年、名古屋市生まれ。大学の法学部を卒業後、97年4月に名古屋市の行政職職員に採用され、総務局職員部などを経て2020年4月より現職。