「国を豊かに」官僚たちの忖度なき情熱 いま求められる姿は

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吉川一樹
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 世界に追いつき追い越せ――。高度経済成長の時代、一つの法案をめぐって熱い思いをぶつけ合う官僚たちの姿がありました。その応酬を描いた小説の刊行からおよそ半世紀。いま求められる官僚像とは。

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1971年当時の東京・霞が関の官庁街。(交差点左上から時計回りに)通産省、大蔵省、外務省、農林省=朝日新聞社ヘリから

 〈おれたちは、国家に雇われている。大臣に雇われているわけじゃないんだ〉

 こう吹聴し、大臣にもノー上着、ノーネクタイ、腕まくり姿で会う通商産業省(現・経済産業省)の風越信吾が『官僚たちの夏』の主人公だ。時代設定高度経済成長期の1960年代。何者をも恐れない武骨さが読者の心をつかんだ。

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官僚たちの夏(新潮文庫)

 週刊朝日の連載小説「通産官僚たちの夏」を元に刊行。城山三郎はモデルの佐橋滋さん(1913~93)に会わず、綿密な周辺取材で執筆した。佐橋さんは事務次官を務めた後、民間企業に天下りしなかったことでも知られる。96年と2009年にドラマ化された。

 慶応大教授で元内閣官房副長官の松井孝治さん(61)は東京大2年のときに読み、日本の産業を強くして豊かな国にしたい、という情熱にひかれた。民間企業は1社も受けずに83年に通産省に入った。日本経済が「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とたたえられた頃。産業競争力は強く、貿易摩擦が激化した。「海外からの風圧の中、いかに日本の市場と競争力を守るか。非常にやりがいを感じましたね」

 城山三郎(1927~2007)が材を取った実話はこうだ。風越のモデルで「異色の官僚」と呼ばれた企業局長の佐橋滋さんは、貿易自由化の流れが強まってきた折、特定産業振興臨時措置法(特振法)案を取りまとめた。特に重要な産業の国際競争力を強めるため、官民協調で合併や合理化を進めるというもの。63年から3度国会に提出されたが、「官僚統制の復活」との批判を受け、廃案になった。

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八幡製鉄と富士製鉄の合併について、公正取引委員会の公聴会を前に朝日新聞の企画で対談する佐橋滋・元通産事務次官(右)と内田忠夫・東大教授。佐橋さんは経営効率が上がるとして合併を支持=1969年

 小説では法案をめぐり、貿易自由化を時期尚早と考えた風越を筆頭とする「民族派(統制派)」と、自由化を説く「国際派」官僚が省内で対立した様子が描かれるが、実際はどうだったのか。

 63年入省の元通産事務次官…

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