災害時に働く人の健康支援 産業医大、研究拠点設置へ

棚橋咲月
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 【福岡】産業医科大(北九州市)は近く、災害時に会社や自治体で働く人たちの健康を維持するため、支援や調査研究を担う「災害産業保健センター」を設立する。大学側によると、同趣旨の研究拠点の設置は国内では初めてという。

 大規模な災害などが発生したとき、例えば自治体職員は多くが自身も被災しているなか、膨大な業務で長時間労働を強いられる。心身の不調を訴える職員も少なくない。また、規模の小さい自治体だと産業医も常勤ではなく、健康管理を個人の努力に委ねざるをえない場合もある。

 センターの設置に中心になってかかわる森晃爾教授によると、発災後、「支援者の支援」も含めてどう動き、どんなケアが必要か、ノウハウを知る専門家が伝え、支援する――。こうしたことが、センターの役割として想定されている。ノウハウを蓄積・分析することで、今後の支援にも生かす考えだ。

 大学側によれば、産業医科大は産業医を養成する国内唯一の大学。森教授によると、「災害産業保健」はこの10年で研究が進んだ新しい分野だ。

 契機となったのが、東日本大震災だった。

 産業医科大は、東京電力福島第一原発の事故があった2011年、東電からの要請で、免震重要棟で応急対応にあたる医師らを派遣した。森教授も免震重要棟に詰め、作業員が体調を崩さずに働き続けるためにはどうすればいいか、対策をたてるのが仕事になった。

 現地でわかったのは、作業員はさまざまなリスクにさらされていることだった。短時間で高い線量の放射線を浴びる危険は低くなる一方で、まだ春なのに熱中症を訴える人が出ていた。防護服やマスクで熱がこもったためだった。靴のカバーも、滑りやすく転倒のリスクがあった。

 さらに、元請けから二次請け、三次請けと業務の請負が複雑化し、作業員全体の安全衛生管理体制もあいまいになっていた。

 森教授らは、東電や協力会社の産業医らと話し合い、現場の実情に応じた提言集を国に提出。これを受けて厚労省は同年6月、東電や関係企業に、夏場の午後2~5時の作業休止を含む熱中症対策の指導を実施した。東電側も作業時間の制限や休憩スペースの確保、水分の用意など対策を進めた。

 その後、冬に向けてインフルエンザノロウイルスの集団感染対策も必要になり、ワクチン接種などの準備を進めた。「リスクやニーズは時間とともに変化する。それを予見しながら、柔軟に対応できる専門機関が必要だ」。それを痛感したことが、センター設置に向けた動きにつながった。

 「そもそも産業保健の必要性を、災害発生前に認識してもらわなければ支援は受け入れてもらえない。そのためには研究拠点を常設し、平時から動くことが欠かせない」と森教授は話す。

 今後センターでは、労働災害自然災害など「非常時」に共通して使えるマニュアルの作成や人材育成、災害対応に向けた同大卒業生のネットワークの構築などに取り組む予定だという。(棚橋咲月)