仕事にやりがいを感じたい 自分の過去から手がかり見つける

中島美鈴
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 自分の仕事にやりがいを感じることができたら……。多くの人が望むことです。でも、なかなか見い出せずに苦しむこと人も少なくないでしょう。そんなときに手がかりになるのは、やはり自分です。過去の経験に重要なヒントがあるかもしれません。臨床心理士の中島美鈴さんが解説します。

 ADHDを「天才肌だ」と書いた本も世の中にはたくさんありますが、大半の人はADHDでなくとも、天才的な才能に恵まれているわけではありません。

 「自分の中での得意不得意の差が大きいことはあるでしょうけれど、その得意の部分だけで飯が食えるほどの自信はない。そんな職業はない」

 みなさんそうおっしゃいます。

 かくいう私も、これといった得意のある人間ではなく、苦労しました。水泳部に所属していましたが、どの種目が特に速いわけでもなく、どれもまんべんなく。ぱっとしない。短距離が得意でもなく、長距離が得意でもなく、なんならスポーツ全般パッとしませんでした。でも、みんなが嫌がる「個人メドレー」(バタフライ、背泳ぎ、平泳ぎ、クロールをそれぞれ50メートルずつ)になら多少可能性があるかもと思いました。

 繰り返しますが別にそれが速かったわけではありません。みんなきつくて嫌だという種目なんですが、それなら倍率が低いかな、それなら多少は自分の居場所があるかなという発想です。

 それでとにかく全部の泳ぎを50メートルずつは泳げるように練習して、その種目で大会に出ることができました。花形のクロールでは、高身長で手足の長い人に勝てる可能性がないので勝負しなかったのです。

 結果、パッとしませんでしたが、私はひとまず部活の大会が経験できてよかったなあと思っています。後から考えると、自分では気づいていなかったけれど「長く泳げる」「どの種目も致命的な欠点はない」ところは強みだったのかもしれません。

 当時の私に誰かがそういってくれていたら、もっと自信を持ってがんばれていたかもしれません。別に水泳の結果は、地区大会にすら進んでいませんから、大成功でもなんでもないですが、働くのもこのぐらいの感覚でいけたらいいなと中学生ながらに思いました。

そのタイプの苦労なら、という感覚

 自分では強みってやっぱりわからないけど、「あ、そのタイプの苦労は、他の人よりは苦にならないかも」ぐらいの感覚で仕事を選べたらいいですよね。

 ADHDの人に向く仕事となると、あまりに規模の大きな話になるので一般化なんて全然できないのですが、自分に向く仕事となれば、「得意なところは自分でやるし、不得なところはとことんアウトソーシング」できるフリーランスは向いているかもしれません。

 そんなふうにADHDの人に限らず、個人個人が自分に合わせて仕事をオーダーメイドできたらいいなと思います。

 ADHDの主婦リョウさんは、パート先のマルチタスクに疲弊気味です。

 それでも素敵社員のナツミさんの仕事の技を盗みつつ、ずいぶん慣れてきました。慣れてきたものの、リョウさんらしさを全開にした、ワクワクするような仕事をしているのかと言われると、全然そんなことはありませんでした。いわゆる「やりがい」とは程遠い仕事内容だったのです。

 リョウさんはそれでも子どもが5、6年生になるまでフルタイムで働く自信はありません。自分の体力や気力からそんな予感がするのです。だから今は通勤時間が短い近場で働いていて、そこそこ気に入っているのです。でもきっとあっという間に3、4年はたつのでしょう。

 リョウさんは少しずつ、長期的な視点で自分に向いた仕事について考えていくことにしました。

自分の過去に重要なヒント

リョウ「私ってこれまでにこれといって得意なものなんかないんだよね。強烈に好きなこともなんにもないし」

 そうですよね。普通そうです。

 こういうとき、私は自分の過去に重要なヒントがあるとお伝えしています。

 過去に夢中になれたもの、うまくいったことはすでに実社会でうまくいくことが検証済みの持ち味だからです。

 「これからお笑い芸人になりたいんだ。私は人を笑わせる才能がある」と急にいわれるより、「私は小学生の頃から人を笑わせてきました。お楽しみ会ではコントをいつも披露していたし、町内会の夏祭りでも毎年舞台でお笑いをしていました」と過去のエピソードつきで言われた方が「おお、それなら成功できるかもね」と安心できるかんじと同じです。それでも多くの大人が「でもしょせんクラスのお楽しみ会とか町内の夏祭りレベルの話でしょ。実際お笑い芸人を目指すのは厳しいのよ」と眉をひそめるかもしれません。

 ここでは、才能を発掘するというよりは、何に対してなら「小学生の頃のように、目をキラキラさせて、ワクワクできるか」の方が大切です。才能より興味をもういちど思い出すのです。

 というのもADHDの人にとって、モチベーションは、何より大切なものだからです。前にもお伝えしたとおり、ADHDの人の脳内では、ドーパミンが不足しているといわれていて、そのため他の人が「義務感」でやる気を出すような場面でも、なかなかやる気が出なくてついつい先延ばししていまうことが指摘されています。

 仕事に対しても同じです。リョウさんがやりがいを感じる仕事を探すことに対して「だれしもやりがいを感じられる仕事につけるわけじゃないんだよ。ぜいたくな。仕事は生きていくために必要なんだ。それ以上でもそれ以下でもない」という意見をお持ちのお方もいらっしゃるかもしれません。

 しかし、リョウさんのようなADHDタイプの人にとっては、むしろ「やりがい」は必須なのです。

エピソードを比べてみると

 さて、リョウさんの過去からどのようにして「興味」を発掘していきましょう。

 リョウさんにはこれまでの部活でも遊びでも好きだった曲でも行ってよかった場所でも、好きな人でもなんでもいいので幸せだったエピソードについて語ってもらいました。反対に全然うまくいかなかったエピソードもあるといいでしょう。

・リョウさんのうまくいったエピソード

 ①陸上部で800メートル走選手だった。楽しかった。

 ②小学生の頃は自由研究が好きだったなあ。

 ③学生時代にしたアルバイトでは、マニュアルのない自由なイベントのたこ焼き販売が楽しかった。

・リョウさんがうまくいかなかったエピソード

 ①小学生の頃の班のみんなで一緒に何かをするのが苦手だった。

 ②茶道や書道を習った時期があったが、とにかく窮屈で辛かった。

 ③説明書どおりに組み立てる工作は苦手だった。

 さて、うまくいったものに共通する要素はなにかありそうでしょうか?

 うまくいかなかったものとの対比で見ると、より際立つでしょう。

 リョウさんはわかりやすく、「個人プレー(グループではない)」、「自由に創意工夫をする(マニュアルどおりにできない)」あたりがキーワードですね。

 キーワードを元に、今度はそれが実社会でどのような形で生かせそうかを探します。続きは次のコラムです。

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中島美鈴
中島美鈴(なかしま・みすず)臨床心理士
1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。