ノーベル平和賞の国で虐殺が…80民族の国家、理想の果てに

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ヨハネスブルク=遠藤雄司
【動画】虐殺の犠牲になった弟の墓前で、救えなかったことを悔いる姉が涙を流していた=遠藤雄司撮影
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 エチオピア北部ティグライ州西部の町マイカドラ。黒こげになった自宅跡に目をやりながら、アゲレイ・モゲスさん(28)は声を絞り出した。

 「もうティグライ人に良い感情を抱くことはできない」

 昨年11月、町はティグライ人の武装集団に襲撃された。アゲレイさんは元兵士の夫を自身と娘(7)の前で殺され、自宅を焼かれた。

 アゲレイさんと夫は州内で少数派のアムハラ人。2度にわたる計2時間あまりの取材中、私と一度も目を合わせることがなかった。悲惨な体験のせいで他人の目を見られなくなったのだろうか。終始うつむきながら、「夫も財産も何もかも失った」「この地を離れたくても行くあてもない」と力なく語った。

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 3月、私はエチオピア北部に入った。政府軍と、地元のティグライ人らで構成される政党ティグライ人民解放戦線(TPLF)との間で昨年11月に始まった紛争の現場を取材するためだった。エチオピアは人口1億1千万人超とアフリカ第2の大国である一方、工業化が急速に進んでおり、世界銀行によると2010年代の国内総生産(GDP)成長率は平均9・4%と堅調な成長を続けてきた。アビー首相は隣国エリトリアとの関係改善などを評価されて19年にノーベル平和賞を受賞したばかりでもある。そんな国で武力衝突が起きたのはなぜか、確かめたかった。

一軒ずつ確かめ歩く武装集団

 マイカドラは首都アディスアベバから北西に約600キロだが、隣国スーダンの国境までは10キロに満たない。政府軍とTPLFとの間で衝突が始まった直後、TPLFの民兵と連れだった武装したティグライ人の若者グループがアムハラ人を中心に約600人を虐殺したとされる。虐殺を逃れてスーダンに逃げた住民も多い。

 住民らによると、武装集団は町内の家に一軒一軒押し入り、身分証明書や話す言葉などからアムハラ人だと確認した人々を次々に殺害したとされる。特定の民族を狙った虐殺だった。政府軍がマイカドラ近くまで迫っていたことなどから、撤退間際の組織的な報復だった可能性を指摘する人もいた。

 この出来事は長年ともに暮ら…

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