米紙記者に聞く、アジア系差別の現状は 記者サロン開催

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 記者サロン「バイデン政権と日本 米国でのアジア系差別はいま」が8月28日、オンラインで開かれました。自身もアジア系市民として米国で生まれ育った、米ワシントン・ポスト紙記者のデビッド・ナカムラ氏をゲストに迎え、サンフランシスコ支局長の尾形聡彦記者と語り合いました。

 イベント冒頭、混乱が続くアフガニスタン情勢に触れた。アフガン取材の経験があるナカムラ氏は、カブールでの自爆テロで米兵が犠牲になったことへの米国内の受け止めについて「バイデン政権発足後でも大変な2週間となった。今回の爆破テロで13人亡くなったが、(ヘリが墜落して米兵30人が死亡した)2011年以来、1日で最も多くの米兵が犠牲となった」と言及。「アフガン戦争は20年続いており、米国民の関心は上がったり下がったりしてきたが、今回の惨事はとてもショッキングな出来事だと受け止められている。米国市民にとっても、自分と直接関係のある感情的な状況になっている。バイデン政権にも非常に打撃を与えている」と指摘した。

 米国でのアジア系米国人の現状について、尾形記者は「アジア系の米国人として、ナカムラ記者自身が差別を受けたことがあるか」と質問。ナカムラ氏の父方は日系米国人で、祖父は福岡、祖母はカリフォルニアで生まれ、2人とも第2次大戦中は強制収容所に入れられていたという。母方はユダヤ系の東欧出身だ。「いわゆるハーフとして米国で育ち、様々な悪名で呼ばれたことは子どもの頃からあった。幸運なことに身体的な暴力はなかったが、中西部はアジア系米国人があまりいない地域だったので、常に自分は違う、外国人扱いをされている状況はあった」という。

 増加傾向にある米国でのヘイトクライムについて、ナカムラ氏は「ひとつの懸念は、トランプ前大統領の中国に対する『チャイナウイルス』などの発言が、アジア系米国人への差別に加担する状況になっていること。特にそうした差別は、中国系米国人に対して行われている」と話した。

 ナカムラ氏は、スタジオで紹介されたヘイトクライムについてのデータに触れ、「興味深いことにこうしたデータは草の根団体が集めている。カリフォルニア州の市民団体で、自分たちでホットラインを作って、被害があった場合は直接報告できるようにしている」と説明した。

 また、アジア系に対する差別行為について、ナカムラ氏は「この1年間で明らかに増加しているが、どのぐらい増えているのか具体的に把握することは難しい」と指摘。「米連邦捜査局(FBI)や私が取材している司法省が様々な統計を集めているが、その定義がものすごく狭く、データも草の根団体が集めているものよりかなり少ない。バイデン政権はFBIと協力して、もっと正確に把握できるデータを作ろうとしている」として、米政府による状況把握に課題があるとの見方を示した。

【動画】記者サロン「バイデン政権と日本 米国でのアジア系差別はいま」

 アジア系差別の背景について、ナカムラ氏は「コロナ禍で増えただけでなく、もっと大きな文脈の中での状況だ」とも指摘。具体的には「アジア系米国人は人口の割合では少数派だが、最も速い勢いで増えている。『モデルマイノリティー』と呼ばれ、静かにルールを守り言葉があまりできないので完全な市民でないと社会からみられている。アジア系米国人の活動家らは、そのような状況を政治的な運動にしていこうと考えている」と話した。

 視聴者からは「米国で暮らす場合に気をつけることはあるか」という質問があり、ナカムラ氏は「日常的に文化の違いはいつもあり、誤解することは常に起こりうるということを、理解しないといけない」と話した。

視聴者からの声

30代女性(海外) 米国人の夫と一緒に見ました。去年、米シアトルに引っ越しもうすぐ1年になります。ダイバーシティーカルチャーだからこそ、違っていることを理解し認め合える米国でいてほしい。

50代女性(三重県) ヘイトクライムは以前から続く問題で、デビッドさんも学生時代そういうことを経験してきたと言っていたので、根深い問題で、なかなか前に進みにくい問題なんだと再確認した。

70代以上男性(大阪府) 米国人がいわゆる白人以外の人種に対して抱いている差別意識と、非白人の中でもどの人種が差別の的になるかが、それぞれの時代で白人の都合で変化することが興味深かった。

70歳以上男性(埼玉県) アジア系差別について公的な統計が少なく民間の団体の統計に頼っている点など、実情の理解の参考になった。

70歳以上女性(東京都) 多くの人種の集合体である「アメリカ合衆国」の複雑な社会を感じることができた。差別を無くしてと言われているが、根が異なる人々が交わる社会の難しさを考えた。

50代男性(東京都) 欧州もイスラムの問題はあるが、アジア系差別についてほぼ聞かない。この背景にあるのは、文化(米国至上主義)なのだろうか。

50代女性(愛知県) 差別意識は競争心から来るものと聞いたことがある。人は周りと自分を比べてしまうものだが、自分が劣っていると認めるのがつらいため、ゆがんだ視点で人を見て序列をつけ、おとしめたりする。差別は、無知あるいは自分自身が弱い証しだという共通認識が広がるとよいと改めて感じることができた。

40代女性(東京都) 米軍のアフガニスタン撤退という、タイムリーな話題にも時間をしっかり費やし、バイデン政権が撤退にこのタイミングで踏み切った背景をはじめ、ナカムラ氏がカブールで取材していた当時からの情勢変化など、示唆に富んだ内容だった。

60代女性(東京都) 子や孫たちが留学や仕事で米国に行くことも多いので、日本人が差別されることがあると心配になる。バイデン政権がどのように思ってどのように対処するのか今後も教えてほしい。

60代男性(埼玉県) 世界がコロナ禍にあって、人々のメンタルに余裕が無くなっているから、差別は決して無くならないのだろうか。決して差別することがないと言い切れない自信のない私がいる。

50代女性(神奈川県) 市民団体が差別に対して根強い活動をしている話にとても感心した。それがデータとして利用されるぐらいのしっかりとした活動というところが、米国の良心でもあると思った。

スピーカー略歴

デビッド・ナカムラ 米ワシントン・ポスト紙記者。2011年から10年間、ホワイトハウスを担当した。米CBSの討論番組「フェイス・ザ・ネーション」など米主要メディアに出演多数。現在は米司法省担当として、米国の人種差別問題などを幅広く取材。

おがた・としひこ 朝日新聞サンフランシスコ支局長。1993年入社。東京経済部、ロンドン特派員などを経て現職。2009~12年はワシントン特派員としてホワイトハウスなどを担当。