ロンドンコレクション開幕 大手メゾンのデザイナーが育った発表の場

ファッションロンドン・コレクション

ファッションジャーナリスト マスイユウ
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 ロンドン・ファッション・ウィークLFW)が17日に開幕する。今シーズンから朝日新聞はLFWの「エクスクルーシブメディアパートナー」として、特設サイトで各ブランドの発表を同時配信する。

 今回のLFWでは、5日間にわたり81のデジタル、79のフィジカルイベントが予定されている。世界中のファッションウィークで再び増えてきたリアルなショーの復活を祝うように、LFWでもまた実際のキャットウォークショーがスケジュールの中心に戻ってくる。

 パンデミックが始まって以来、デジタル、またはデジタルとフィジカルを合わせた“フィジタル”(またはハイブリッドとも言う)で開催されてきたが、前シーズンは感染拡大を受けて完全デジタル、1年前の9月もフィジカルのショーの数は2、3本と圧倒的に少なかった。ブランドのPRスタッフたちは「コロナ前にどのようにショーを開催していたか思い出せない」と冗談を言っているが、実際に遠い昔のように感じる。

 LFWは、さらに遠い昔の1985年に初開催された。これまでにバーバリーやヴィヴィアン・ウエストウッド、ポール・スミスなど、老舗ブランドや英国を代表するデザイナーたちが参加してきた。

パリやミラノのメゾンを動かすロンドンのデザイナーたち

 また90年代には、クリスチャン・ディオールを経て現在メゾン・マルジェラを手がけるジョン・ガリアーノや、ジバンシィのデザインを担ったアレキサンダー・マックイーン、そしてコンセプチャルなデザインで日本でも人気を博したフセイン・チャラヤンのような、英国のニューウェーブが輩出。

 2000年代には新進気鋭のデザイナーが続々と登場し、ミラノやパリと並ぶファッションの一大拠点になった。現在ディオールのメンズを率いるキム・ジョーンズは、まさにその世代だ。最近ではロエベのジョナサン・アンダーソンが代表的な「ロンドンデザイナー」かもしれない。

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著名ファッション写真家ユルゲン・テラーが撮り下ろしたJWアンダーソンの21年秋冬(ブランド提供)

 そう、ロンドンから巣立った多くの才能が、パリやミラノのメゾンを動かしている。ロンドンなしではファッションは回らないと言っても過言ではない。ツイッギーがミニスカートで日本人の度肝を抜いたスウィンギングロンドンからモッズ、パンク、テディボーイ、ニューロマンティックと、英国は数々のトレンドを生んできた。今もLFWは最新トレンドの生まれる場所であり、実験場でもあるのかもしれない。

 その原動力になっているのが若手デザイナーたちだ。セントラル・セントマーティンズ美術大学やロンドン・カレッジ・オブ・ファッションなど、ロンドンには多くの高等ファッション教育機関があり、新人や若手へのサポートが充実している。そうした教育を受けた人たちが、現在はファッション業界全体を牽引(けんいん)しているのだ。

今回のロンドン・コレは若手と中堅が主役

 22年春夏のLFWで発表するブランドは、老舗や大手のメゾンというよりも、若い才能や中堅デザイナーたちが中心になっている。

 予定されている28のキャットウォークの最大の見どころは、リチャード・クインかもしれない。17年のデビュー時にはアレクサンダー・マックイーンの再来かとささやかれた。

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リチャード・クインの21年秋冬。在りし日の大屋政子さんを思い出すシルエットに、エナメル調のフェティッシュボディスーツ(ブランド提供)

 ビーズや刺繡(ししゅう)を使ったきらびやかなドレスの一方で、モデルが呼吸困難にならないかと心配になる、頭までラバーで包み込んだフェティッシュ感満載のコレクション。その姿は伝説的なドラッグクイーンでパフォーマーであるリー・バウイをほうふつとさせる。ブランドを代表する花柄の生地は自身のプリントスタジオで印刷し、そのスタジオは他のデザイナーにも提供している。環境に配したアプローチが認められ、サステイナビリティーに力を入れている若手デザイナーをねぎらうために設けられた「クイーン・エリザベス・Ⅱ・アワード・フォー・ブリティッシュ・デザイン」の初代受賞者に輝き、初めてLFWを訪れたエリザベス女王からトロフィーを授与された。

 LFWをリードする二つのブランドも忘れてはいけない。アーデムとシモーン・ロシャだ。アーデムは17年、シモーン・ロシャは今春にH&Mからコラボレーションのカプセルコレクションが販売され、日本を含め世界中で名前が知られるようになった。

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ロンドン郊外の森で撮影されたアーデムの21年春夏のデジタルショー(ブランド提供)

 アーデムはロマンチックな歴史小説を読んでいるようなクラシックな雰囲気。貴婦人が身にまとう小花柄やレースのドレスを現代風にアレンジする。シモーン・ロシャも透け感のある素材にラッフルや刺繍など、その根底にはアイルランド人の持つパンク魂がある。

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21年秋冬のシモーン・ロシャはパンクでありながらフェミニンな雰囲気を醸し出す(ブランド提供)

 パンクと言えばチャールズ・ジェフリー・ラバーボーイ。オリジナルのタータンチェックやキルトで見せる出身地スコットランドのヘリテージをベースにしながら、アートワークやプリントなど、コレクションを通して反骨精神を感じさせる。どこからどこまでが服かわからない舞台セットや、パフォーマンスアートを取り入れたダイナミックなショーには誰もが引き込まれる。常にドレスを着た男性モデルが登場、今世界で巻き起こるジェンダーレスやダイバーシティームーブメントの発信源の一人だ。

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手を繫(つな)いだモデルたちが輪になり踊る、コロナ前のチャールズ・ジェフリー・ラバーボーイのパフォーマンス(マスイユウ撮影)

 また、50周年を迎えた老舗レザーグッズブランド、マルベリーは、21年の1年間を通して3人の若手デザイナーとコラボ。リチャード・マローンによる作品が彼のコレクションと共に発表される予定で注目を集めている。

若手デザイナーの登竜門を制したブランドも

 ネンシ・ドジョカも今シーズンの注目株だ。若手デザイナーの登竜門とされる世界的な賞「LVMHプライズ」でグランプリを勝ち取ったばかり。繊細な素材を重ねることで作る陰影、肌をも取り込んだドレスはボディーコンシャスだが実にモダン。今後が有望視されるデザイナーが再びロンドンで誕生した。

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LVMHプライズのグランプリ受賞が9月7日に発表されたばかりのネンシ・ドジョカ(LVMH提供)

 さて、LFWのフィジカル再開祭りはショーだけでは終わらない。ブランドが新作発表を終えた夜の時間帯も、イベントが目白押しなのだ。英国ファッション協会とTikTokの招待ディナーや、ファッション業界の女帝と呼ばれるスタイリスト、ケイティ・グランドの新雑誌「パーフェクトマガジン」のローンチまで、パーティーシーンもカムバックする。

リアルなショーでのコロナ対策は

 気になるのは感染症対策だが、どのショーやイベントもEUのグリーンパスのように2回のワクチン接種の記録またはPCR検査、あるいは抗原検査の陰性証明の提示がエントランスで必要になる。

 もちろんデジタルにも見せ場はある。先に紹介したロエベを手がけるジョナサン・アンダーソンの自身のライン、JWアンダーソンは映像で新作を発表。ハルパーンは英国ロイヤル・バレエ団との協業フィルムで期待が高まる。

 また、チュールを重ねた巨大なベビードールドレスで知られるモリー・ゴダードやローエッジデニムのトレンドを世界に広げたグランジデュオ、マルケス・アルメイダもウォッチリストに入れたい。

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モリー・ゴダードの21年秋冬コレクション(ブランド提供)

アジア勢の参加、今回はどうなる?

 コロナ以前のLFWでは、アジア人の若手デザイナーたちも重要な位置を占めていた。しかし、アジアからの渡航というよりも帰国時の隔離がネックになり、リモートでフィジカルショーを敢行する中国人デュオ、プロナウンス以外のレギュラーデザイナーたちはデジタルでの参加になっている。

 日本からは古田泰子によるトーガのほか、日本でのショーをライブ配信する柳川荒士のジョン・ローレンス・サリバンの名が連なる。日本から映像をLFWが管理するサイトに送り、日本からLFWでのストリーミングを見るという“逆輸入”になるのだろうか?

 とにかく、こんな盛りだくさんなLFWを通して、これからのファッションを担う若い才能や新しいトレンドを発見していただきたい!(ファッションジャーナリスト マスイユウ)