自宅療養者を訪問看護とオンライン診療で見守り 横浜
下降傾向が見えてきた新型コロナウイルスの第5波で、神奈川県内では8月下旬に一時、自宅療養者が1万6千人を超えた。年末年始を挟む第3波のピークの3倍以上で、症状が悪化して亡くなる人も出た。そうした中、県立循環器呼吸器病センター(横浜市金沢区)が、自宅療養中の重症化を防ぐ新たな取り組みを始めた。
8月に始まったのは、訪問看護とオンライン診療を組み合わせ、看護師がそばにいる状態で自宅療養者がオンライン診療を受けられる仕組みだ。医療機関によるこうした取り組みは珍しいという。
センターは、新型コロナに対応した県の医療提供体制「神奈川モデル」の中で、中等症の患者を受け入れる重点医療機関に指定されている。これまで900人以上のコロナ患者を受け入れてきたが、訪問看護のような「アウトリーチ」を行うのはこれが初めて。
センターの看護師らが第3波を超える予兆を感じたのは、7月後半だった。コロナ病床は当時40床あったが、新たな入院患者が1日に7、8人という日もあり、満床かそれに近い状態が続いていた。増床するには多くの看護師が必要で、おのずと限界があった。
県内では、自宅療養者の症状悪化をいち早くつかむため、訪問看護ステーションの看護師らが容体を確かめる「地域療養の神奈川モデル」が藤沢市や鎌倉市などで始まっているが、横浜市では未実施だ。センターでは看護師らが独自に素案をつくり、オンライン診療に精通する呼吸器内科医長の丹羽崇さんのもとでこの取り組みを始めた。きっかけは、地元保健所から寄せられた「自宅療養者をもっと早く医療につなげられないか」という訴えだった。感染拡大に伴い、保健所の業務も限界に近づいていた。
取り組みの中で、横浜市内の20代男性の自宅を訪ねた看護師は、こんな経験をした。
保健所の資料では、男性の血中酸素飽和度は90%台後半。呼吸不全に陥る恐れがあるとされる水準ではない。だが、男性と対面してすぐ、看護師は異変を感じた。男性は玄関を開けに来るだけで息切れをしていた。血中酸素飽和度を測ると、90%ほどまで下がっていた。
看護師はスマートフォンでセンターの医師とビデオ回線をつなぎ、男性の状態を判断してもらうため、家の中を歩く様子などをスマホで映し、医師の判断を仰いだ。医師は肺の炎症を抑えるステロイドの飲み薬を処方、肺の状態を回復させることがわかってきたうつぶせ寝を指導した。看護師は持参した処方薬のセットの中から該当する薬をその場で渡した。その後もオンライン診察は何回か行われ、快方に向かった男性はセンターの手を離れた。
これまでに行われた訪問看護・オンライン診療は58件。中には自宅で酸素投与する在宅酸素療法の手配が必要になったケースもあるが、入院に至ったのは5件にとどまっている。
副看護局長の鴫原まゆみさんは「一人暮らしでだれともしゃべれず、水も食事も十分にとれずにいるときに看護師の訪問を受け、医師から『この薬を飲めば、あと何日で体が楽になる』と目安を伝えてもらうことは大きな励みになる」。丹羽さんも「画面越しで得られる患者さんの情報はどうしても限られる。訪問看護と組み合わせることによって、状態を初めて把握できることがある」と意義を語る。
病床の逼迫(ひっぱく)は改善されたが、今も多くの人が自宅療養を続けている。丹羽さんは「症状の変調をいち早く拾い上げる体制づくりがカギになる。保健所や地元医師会などと議論を重ねながら、次の波に備えたい」と話している。(鈴木淑子)
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