新風入れ守り伝える土蔵の町 栃木市嘉右衛門町

根岸敦生
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 栃木県内唯一の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)となっている栃木市嘉右衛門町(かえもんちょう)かいわい。例幣使(れいへいし)街道の宿場町で、巴波(うずま)川の水運の拠点として江戸時代からにぎわった。

 保存地区内に数多く残っている土蔵造りの商家(見世蔵)や土蔵を生かした動きが盛んだ。古さの中に新しさを加えた街並みは、都心のきらびやかな街とは違うが、住民に愛され、ファンを生み出している。

 町名は、この地に住み着いた岡田嘉右衛門が江戸時代初期に新田開発をしたことにちなむ。江戸期に代官を務め、屋敷も残っている。現当主で26代目だ。石灰や麻、回船業で財をなした繁栄ぶりを伝える「岡田記念館」がある。

 館長の岡田陽子さん(85)は25代目夫人。巴波川に沿った中州にある隠居屋敷「翁島」と旧街道沿いの本宅の維持管理が大変という。邸内には豪壮で広大な庭に往時の建物が数多く残る。ロケ地になったり、結婚の記念写真の舞台になったり。「他には残っていない風情を守り伝えたい」

 街道沿いの油伝味噌(あぶでんみそ)は創業1781年。宿場町らしく宅割りは、短冊状で細長い。見世蔵から裏の土蔵群まで敷地が続く。地元では「巴波の川風、蔵の瓦波」といい習わしてきたが、棟続きの土蔵はまさに「瓦波」に見える。

 店の名物は豆腐、里芋、コンニャクの「田楽」。焦げた香りの高さ、味わいは味噌専門店ならでは。「今は少量生産ですが、無添加で昔の味を守っています」と小池典子さん(64)。代々当主が「油屋伝兵衛」を名乗り、屋号になった。

 岡田家の米蔵を改造した喫茶店「物華(ぶっか)」は今年3月に開業した。高い天井と太い梁(はり)など木組みを見せた店内は落ち着いた空間だ。店主の鯉沼俊さん(33)は市南部の藤岡地区出身。「落ち着いた場所がいいと思い、独立する時にここに開きました」。軒続きの花店「スピレ フルリスト」は開業3年目。「静かな町並みが気に入りました」。粟(あわ)や蒲(がま)の穂、鶏頭など秋の花材が並ぶ。

 長屋を改修した八百屋「おた福堂」は7月に開業した。地元野菜を扱っている。店主の太田裕子さん(47)は「祖母の家がこの辺りにあって。どこか懐かしい風情が残っているのが魅力」。路次に残る小さな社や看板。歩いているだけで楽しい。

 嘉右衛門町会長の杉戸洋さん(80)は「地元で生まれ育つと全てが当たり前で町の良さは分からない。でもよそから来る方が見付けてくれる。住む方、商売をする方と町になじんでくれれば迎え入れる町ですから」と話す。

 街道沿いに残る旧ヤマサ味噌の土蔵や建物は市が観光拠点施設として改修している。重伝建に指定されて9年。「景観を守る」営みが進んでいる。根岸敦生

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 〈嘉右衛門町伝建群〉 例幣使街道沿い、水運で栄えた巴波川などに囲まれた約9・6ヘクタール。国の登録有形文化財15棟を含め、江戸時代末から昭和初期までに建てられた建物が残っている。蔵作りの家並みと景観が残る埼玉県川越市千葉県香取市などと共に国の指定を受けている。