1日1組限定、文化財1棟貸し宿オープン オール須坂でおもてなし

北沢祐生
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 【長野】須坂市が所有する国の登録有形文化財が、1日1組限定(1棟貸し)の宿に生まれ変わった。コロナ禍でひときわ厳しい状況にある観光・宿泊業。社会全般で「非接触」が推奨されるなか、地元出身の女性が手厚いおもてなしを前面に「オール須坂」で挑む。

 今月にグランドオープンした「一棟貸宿 白藤」。宿泊施設となったのは、須坂藩で要職にあった浦野家が明治初期に建てた武家屋敷の趣を残す近代和風建築の母屋と、その後に取得した医師が明治後期に診療所として増築した洋館だ。

 市が所有後は委託を受けた地元住民らが管理し、2002年に「ふれあい館 しらふじ」として開館。市民の交流や街づくりの拠点となった。庭の樹齢100年超の白藤からその名がつき、03年に文化財登録された。

 同館の利用が減る中、市は19年に民間から活用のアイデアを募集。これに応じたのが、近くでゲストハウスを営む山上万里奈さん(40)らのチームだった。市と賃貸契約を結ぶ形で、4月に文具屋「机上の時間」がオープン、「白藤」の試験宿泊が始まった。

 同市出身の山上さん。かつて養蚕で栄え、今も蔵が多く残る街の魅力を伝えたいと古民家を改修した「ゲストハウス蔵」を開いて9年目だ。この物件を探している時から「しらふじ」は気になる存在だった。

 文化財のリフォームは、1本の釘を打つのもままならないなど苦労した。それでも9年間で培った人脈を生かし地域の建築士やデザイナー、古道具店らに支えられ、重厚な中にモダンな空間を作り上げた。

 その佇(たたず)まいに加えて重視したのが「フルサービス」。コロナ禍で自動チェックインなど極力、人同士が接しない施設が増えているが、「思い出に残り、もう一度来たいと思ってもらえるのは人とのかかわり。1棟貸しは『ご自由にどうぞ』というケースが多いが、ここでは御用聞きとして24時間体制で張り付く」と山上さんは話す。

 試験宿泊で人気だったフルーツやコメ、日本酒やワイン、器まで須坂産にこだわる。夕食は近隣のフレンチと日本料理の名店と連携。宿に運んでもらったり、外国人客ら希望者は着付けをして店に行ってもらったりする。

 ゲストハウスの外国人リピーターからは「新型コロナウイルスが落ち着いたら、必ず行く」との連絡もあった。「厳しい情勢だからこそ、新型コロナ後を見据えて仕掛けられる時期」と山上さん。「須坂の歴史や文化を100年後に伝え継ぐために今の自分たちが価値を認め、見せていく努力を続けたい」

 宿泊人数は2~7人。母屋・洋館貸し切りで2人利用時は1人1泊2食付き7万円(税抜き)から。問い合わせは白藤代表の山上さん(070・8570・0423)。(北沢祐生)

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