子どもが風邪をひかないと「しっぺ返し」が来る? 経験で語る前に

森戸やすみ
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 子どもの風邪が減っていると思いませんか? 国立感染症研究所によると上気道炎、つまり風邪を起こすウイルスの検出報告数が減っています(https://nesid4g.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data121j.pdf別ウインドウで開きます)。

 前のシーズン、2020/21年の冬はインフルエンザの感染者が記録的に少なかったのです(https://nesid4g.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data127j.pdf別ウインドウで開きます)。例年、気温が下がってくると風邪がはやり、発熱して小児科を受診する子も増えるのですが、患者数がとても少なかったのです。そればかりか、今年の夏も手足口病・ヘルパンギーナ・プール熱といった夏風邪が少なかったのです。

 今も、通常2歳までにほぼすべての子がかかる突発性発疹症にまだなっていないという子がいたり、「熱が出たことがありません」という乳幼児が多かったりします。そして、本来は冬の病気であるRSウイルス感染症が真夏に大流行しました。

 これは世界的なもので、インフルエンザが少なかった冬、RSウイルスが大流行した夏として記録に残るでしょう。

風邪を引かないと「しっぺ返し」がくる?

 こういった感染症の例年にない増減の原因はわかりませんが、おそらく新型コロナウイルス対策として、距離をとったりマスクを着けたり手洗いをしたりしていたためと考えられます。新型コロナにかからないためにやっていたことはある程度効果がありますが、やはりワクチンのない感染症は条件がそろうと大流行してしまい制圧は難しいのです。

 そういう話を他のサイトのコラムで書きました。風邪は、小さい子どもがかかると鼻をまだかめない、ミルクが飲めなくなるなどいっそうつらいでしょう。RSウイルス感染症、インフルエンザインフルエンザ菌b型(ヒブ)感染症、肺炎球菌感染症、百日ぜきなど年齢が小さいほど重症化しやすい感染症も多くあります。だから、ワクチンで防げるものは防ぐ一方、大きくなってから初めて風邪を引くのでも構わないから、わざわざ風邪をもらいにいく必要はないでしょうという内容でした。

 子どもが風邪を引かない、感染症にかからないというのはとても良いことだと思うのですが、なぜかそれを良くないことだと考える人がいて「こんなに風邪を引かないでいるといつかしっぺ返しにあう」と言う人が何人かいたのを目にしました。

子どもがかかると重症化する感染症も

 ヒトが狩猟採集民だった時、少数のグループで暮らして動物と一緒に暮らしていなかった時代は、感染症が起こっても小規模で終わっていました。病原微生物が持ち込まれる源が少なかったし、広がっていく先もないからです。

 ヒトが都市のように大人数で集まって暮らすようになり、数多くの家畜を持つようになると状況が違ってきました。動物間で発生した病原微生物はヒトにうつりやすくなり、ヒト-ヒト感染で多くの人に広がります。現代では物も人も世界的規模で行き交うので、パンデミックが起こります。

 感染症は、5歳未満の子がかかると重症化しやすい病気が多いですから、体がより大きくなり成熟してからかかる方が、生まれてまもなくかかるよりいいでしょう。

 罹患(りかん)率が高くなると死亡率も高くなります。つまり、病気の子が増えると、つらい思いをする子が増えるばかりでなく中には亡くなる子も出てくるのです。

 1923年生まれの医師山内逸郎先生の『子育て 小児科医の助言』には、百日ぜきで苦しむ子が多かった様子、自身が扁桃腺(へんとうせん)炎を繰り返して外来で肥大した扁桃腺を切除された話が出てきます。そして山内先生のお姉さんは、幼い頃に疫痢で亡くなったのです。

 大人になってからの方が重症化する感染症もありますが、麻疹や水ぼうそう、A型肝炎は幸いワクチンがあります。ワクチンは感染症に対する現代人の武器の一つです。かかることなしに防げたり、重症化を予防できたりするので予防接種は受けましょう。

「子どもは風邪をひくべき」は、根拠なし

 それよりも「しっぺ返し」という言葉の悪意が気になります。人は自分が経験してきたことややってきたことこそ正しく、それとかけ離れていると良くない、間違っていると考えがちです。「自分がそうしてきたように子どもというものは風邪を繰り返して大きくなるべき」という根拠は何でしょうか?

 Nelson(ネルソン)という有名な小児科の教科書によると、小児は平均して1年間に6~8回風邪を引くとあります。ただこれはあくまで平均で、都市部で暮らす子どもと、人口密度のとても低い地方で暮らす子どもとでは、状況は異なってくるでしょう。

 風邪は8割がウイルスによるものですが、人口密度の低い地域ではそのウイルスを持ってくるヒトや動物と出会わないからです。その子が、人口密度の高い地域に移住したら風邪を引く機会が増えます。今まで風邪を引いていなかった分、何度もかかるでしょう。

 けれど、小さいうちに風邪を引く方がより良いという根拠はありません。風邪を引かないでいるのは、なにか悪いことをしたり、誰かを出し抜いたりして不当に楽をした結果ではありません。自分の小さい頃や、自分が子育てしていた頃と違うからと言って、罰を受けるという考えはおかしいでしょう。

 副効用という言葉をご存じですか? 薬を使った際に、目的の症状が良くなる以外の良いことが患者さんにあることを指す言葉です。月経困難症などでピルを飲んだ際に、ニキビが減少するのは副効用です。

 新型コロナウイルス感染症は、数々の良くないことをもたらしました。その蔓延(まんえん)防止のために私たちは、マスクを着け人と接する機会を減らし、経済活動も縮小しています。ですが、悪いことばかりではなく、新型コロナウイルス対策は子どもの風邪を減らすという副効用もありました。

 コロナ禍がおさまっても、無理のない範囲での感染対策は続けたいですね。(森戸やすみ)

森戸やすみ

森戸やすみ(もりと・やすみ)小児科医

小児科専門医。1971年東京生まれ。1996年私立大学医学部卒。NICU勤務などを経て、現在はどうかん山こどもクリニックに勤務。2人の女の子の母。著書に『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』(内外出版)、共著に『赤ちゃんのしぐさ』(洋泉社)などがある。医療と育児をつなぐ活動をしている。