学歴格差が生む米国の「絶望死」 ノーベル賞経済学者が語る病理

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聞き手 ワシントン=青山直篤
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 コロナ禍で世界最多の死者を記録している米国は、国民が世界で最も高い医療費を負担する国でもある。ノーベル賞経済学者のアンガス・ディートンさんは白人労働階級で増えた「絶望死」に着目し、学歴による寿命や生きがいの格差に警鐘を鳴らしてきた。この惨禍を機に米国の抱える「病」が改善する見込みはあるのか尋ねた。

     ◇

 ――米国の新型コロナ感染症の死者は67万人を超えて、世界最多です。現状をどうみていますか。

 「コロナ禍はまだ終わっておらず、政府の対応の成否を語るのは時期尚早です。ただ、もともと混乱の中にあった米国社会をコロナが直撃したことは確かです。私は当初、この惨禍を機に医療制度改革の機運が高まることを期待しましたが、そうはなっていません。『悪役』だった製薬会社が、英雄のような扱いを受けているのが一因です。このままいけば、政府が製薬業界を制御することは一層、難しくなるかもしれません」

 ――「悪役」ですか? ファイザーやモデルナといった米製薬会社がコロナワクチンを開発した点は評価すべきでは。

 「確かにその技術力は否定できません。ただ、製薬会社はワクチン開発にあたり政府から膨大な資金を受け、副反応の法的責任も免除されています。開発や普及には連邦・州政府のみならず軍も深く関与しました。製薬会社が米国を救ったとみるのは誤りです」

 ――あなたは以前から、製薬会社も関与する米国の医療制度の害悪を厳しく批判してきましたね。

 「コロナ前から米国は世界で最も医療費が高額でした。にもかかわらず、平均余命は富裕な国々のなかで最低です。データを詳しく分析したところ、1990年代後半以降、薬物、自殺、アルコール性肝疾患による死亡率が、特定の社会層で上昇していることがわかりました。大学の学士号を持たない人々でした。私はこの広い意味で自死と呼べる死を、絶望がもたらした死と名付けました」

 ――学歴によって生きる希望に格差が生まれているのですね。

 「米国の経済成長は、大卒層の一部にこそ成功をもたらしましたが、非大卒層には何ももたらしませんでした。非大卒の良い雇用は減り続け、賃金の中央値は半世紀以上も下がり続けています。土地や株式など資産の保有比率は90年代半ばまで大卒と非大卒で半分ずつ分け合っていましたが、今は大卒が4分の3を保有しています」

 ――経済以外の社会的な要因もあるのでしょうか。

学歴による生きがい格差が、白人労働階級の「絶望死」を招いていると語るディートンさん。インタビュー後半では、背景にある米国社会が抱える「病」に迫ります。

 「非大卒は結婚もしにくく、子どもを持つ場合でも未婚で産み、ひとり親で育てなければならないケースが多い。見逃せないのが、心理的、肉体的な様々な『痛み』を訴える声が増えていることです。彼らが精神的なよりどころを失い、人生がばらばらに砕けていく感覚に陥った時、ましな選択肢として選ばれたのが薬物でした」

 ――中毒死にもつながる麻薬…

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