アフガン「国造り」なぜ失敗 「紛争解決人」の述懐

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編集委員・藤田直央
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アナザーノート 藤田直央編集委員

 こんにちは。藤田直央です。政局の秋ではありますが、国際社会にとって大事な節目が先日ありました。米国での同時多発テロから20年になる9月11日です。

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 2001年のその夜、私は外務省の記者クラブにいました。ニューヨークの世界貿易センタービルが煙を上げる様がテレビで生中継され、そこへハイジャックされた2機目の飛行機が突っ込み、「あっ」と声が漏れたのを覚えています。

 首謀者はアフガニスタンにおり、当時のタリバン政権は米国への引き渡しを拒んで攻撃され崩壊しましたが、20年後の駐留米軍撤収を機に復権。これは話を聞かねばと思ったのが、東京外国語大学教授の伊勢崎賢治さん(64)でした。

 自称「紛争解決人」。アフリカでの国連平和維持活動(PKO)で武装解除にあたるなど各地の紛争解決に携わり、03~04年には日本政府特別代表としてアフガンで武装解除を担当しました。タリバン政権崩壊後、国際社会はアフガンがテロ組織の温床にならないよう「国造り」に乗り出しますが、その現場を語れる貴重な方です。

 久々に東京都内のご自宅を訪ねると、深刻な様子でした。タリバン復権を恐れ国外に逃れようとしているアフガン人には、「国造り」への日本の支援に関わった人たちもいたのです。どうしてこうなったのか。政府代表当時にさかのぼって伺いました。

 「アフガンでは軍閥が割拠し、冷戦期に侵攻し撤退したソ連軍が残した兵器で武装していました。それを抑えていたタリバン政権の崩壊後、新政府と国軍の創設を国際社会が支えます。日本は軍閥の武装解除に手を挙げ、僕はその責任者になりました」

 「武装解除が中盤にさしかかった04年ごろ、問題が起きました。軍閥に武器を放棄させた地域にタリバンが戻ってくる。国軍は育っていない。米軍中心に駐留を続けるNATO(北大西洋条約機構)軍が展開したが、『力の空白』を埋めるには足りない」

 そこで伊勢崎さんは武装解除の延期をNATO軍に訴えましたが、だめでした。アフガン初の大統領選が04年10月に控えていました。国際社会の「国造り」の象徴であるこの選挙を安全に実施するためとして、武装解除を進めることになっていたのです。

武装解除「米軍が譲らず」

 「特に米軍が譲らなかった。とにかく米大統領選までにアフガンの大統領選を遂行しろ、と本国から厳命があったという話でした」

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2003年、アフガニスタン東部のパキスタンとの国境付近で軍閥の武装解除に携わる伊勢崎氏(手前)=本人提供

 その米大統領選があったのは、アフガン大統領選の翌月の04年11月。「テロとの戦い」をアフガンからイラクへと広げたブッシュ大統領の再選がかかっていました。私がちょうど米国に留学していた頃で、米兵の死者がすでに数千人にのぼり、争点としてメディアをにぎわしていたことを思い出しました。

 二つの大統領選は予定通り行われ、米国ではブッシュ氏が再選。武装解除に反対を続けた伊勢崎さんは04年に日本政府代表を離れますが、06年にNATOからドイツ・ボンでの実務者会議に招かれました。肩書でなく仕事で信頼を得てきた「紛争解決人」はその会議で踏み込み、「タリバンと交渉を」と発言しました。

 「知り合いのNATO軍幹部たちが、タリバンへの完全勝利は無理だと言い出していたんです。武装解除を急いで力の空白が広がり、タリバンが入ってくる。対抗すべき国軍の規模も計画はどんどん膨らむが、世界最貧国のアフガンで実際には無理です。タリバンに勝てない中でこの戦争をどう終わらせるか。その葛藤がもう始まっていました」

 新生アフガンの国会議員も参加したボンの会議では、「タリバンと交渉を」との発言にブーイングも起きたそうです。でもその後、事態は伊勢崎さんが見通したように推移します。

 駐留が長期化するNATO軍は14年にアフガン政府に治安権限を渡しましたが、国軍がなかなか育たず撤収しきれません。アフガン政府とタリバンの和平交渉に加え、アフガン政府の頭越しに米国とタリバンの交渉も始まりました。

 ところが今年就任したバイデン大統領は4月、「米国の最も長い戦争を終わらせる」として9月11日までの完全撤収を表明。その期限が迫る8月にタリバンは首都カブールへ侵攻して実権を握り、アフガンの大統領は国外へ逃れました。

 バイデン大統領は演説で「アフガン軍が戦おうとしない戦争で、米兵が戦って死ぬべきではない」と批判しました。しかし、伊勢崎さんは米国を批判します。

バイデン氏は「お門違い」

 「国際社会もアフガンに軍人…

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