行き違いはなぜぶつからない? 歩きスマホで実験

伊丹和弘
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 【新潟】歩きスマホが人の通行にどんな影響を与えるかを解析した長岡技術科学大学の西山雄大講師(39)らの研究がノーベル賞のパロディーともいわれる「イグ・ノーベル賞」を受賞した。人々を笑わせ、考えさせる研究に贈られる賞だが、西山講師は「避難誘導や物流の効率化に役立つかも」と話している。

 研究は京都工芸繊維大学の村上久助教が中心となって行った。西山講師は学生時代から村上助教と動物の群れの動きについて研究。今回は人の群れである群集を対象にした。

 例えば横断歩道などで群集が向かい合って通行する場合、人は自然に対向してくる人とぶつからないような列(レーン)を作り、すれ違う(群集の「自己組織化」)。一方で、個々の歩行者は互いに未来の位置を予期し、調整しあうことで群集の中で衝突を回避する道を見つける。この「相互予期」が、群集の自己組織化でも役立っている、と仮説を立て、実験・検証した。

 これまで群れの動きの解析は、パソコンなどで様々な条件を定めてモデルを作り、再現させることが主流だった。大きな群れをつくるムクドリは近くの個体同士で互いの距離や速度を一定にすることで群れを維持するとみられ、パソコン上でも同じような動きが再現できた。ところが、ビデオの解像度が高くなり、映像を解析できるようになると、個々の鳥はかなり複雑な動きをしていることが分かった。「現在はビデオで実際の動きから解析するのが主流です。ムクドリは今では周囲7羽の動きから自分の動きを決めることが分かっています」

 実験では27人ずつを左右に分け、幅3メートルの道を自由な速度、追い抜き可で通行させた。片方の群集の先頭3人にスマホで1桁の足し算をしながら歩いてもらう通行と、歩きスマホがない通行を上からビデオで撮影。個々の動きや集団に対する影響を解析した。

 個々の動きでは歩きスマホがあると、衝突直前になっての回避行動の頻度が、歩きスマホの人と対面した人だけでなく、その後ろにいる人、歩きスマホの人と同じ方向に動いている人にも増えた。「前もって回避する行動ができなくなった人が増えた、と言える」。

 集団でみると、全体の歩行速度が遅くなり、レーンを形成するまでの時間も平均4~5秒から5~6秒になり、倍以上の時間がかかったケースもあった。「歩きスマホなど一部の人の相互予期を妨げる要因があると、他の人の相互予期も妨げることが分かった。自己組織化も影響を受ける」

 人が群集の中で道を見つける相互予期をする際に、対面する人の視線を利用していることは先行研究で分かっていた。歩きスマホという身近なことを使ったユニークな実験だったことがイグ・ノーベル賞の受賞理由にも挙げられた。「ただ、視線だけで予測しているなら、スマホに向けられた相手の視線から、直前ではなくもっと前に回避行動してもよいはずだ。視線以外の要因もあるはずで今後の研究課題だ」

 西山講師は「相互予期と自己組織化のメカニズムが分かれば、災害などの避難時にパニックにならない誘導方法や、人や機械が混在する物流に生かせるかもしれない」。伊丹和弘