ハクはなぜ「神様語」なのか 役割語から読み解くジブリの世界

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加藤あず佐
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 「そうじゃ、わしが知っておるんじゃ」

 「そうですわよ、わたくしが存じておりますわ」

 こんな話し言葉を聞くと、私たちは自然に、おじいさんとお嬢様の姿を思い浮かべる。特定の人物像と結びついた特徴ある言葉遣いを、大阪大学大学院文学研究科の金水敏教授(65)は「役割語」と名付けた。役割語からアニメの世界を読み解くことで、見えてくるものとは。

 

ナウシカも魔女の宅急便も 学生200人超受講

 金水さんは3年前から、「ジブリアニメのキャラクターと言語」と題した講義を始め、毎回200人以上の学生が受講している。講義では、「風の谷のナウシカ」や「魔女の宅急便」など、宮崎駿監督が手がけた六つのジブリアニメを扱い、セリフを分析する。「ジブリでは、役割語が特にうまくストーリーを引き立てている」と金水さん。どういうことなのか、「千と千尋の神隠し」を例に、解説してもらった。

 作品は、10歳の少女・千尋が不思議な神々の世界に迷い込み、湯屋で働きながら成長していくストーリーだ。湯屋の経営主の魔女・湯婆婆は、「~かね」「~おくれ」などの「おばあさん語」を多用する。千尋を助ける少年で、川の神様・ハクは、「そなた」といった「神様語」を話すことで、時間を超越した特別な存在感を出しているという。

 金水さんが注目するのが、湯屋で働く少女・リンの言葉だ。リンは千尋の先輩で、「いつか湯屋を出たい」という強い意思を持っているキャラクター。「メシだよ」「~かよ」など、男性語を話す。金水さんは、「強い少女像を際立たせるために、あえてジェンダー観をずらした役割語が使われている」と指摘する。

 一方、主人公の千尋の言葉は、「特徴がないことが特徴」だという。ヒーローやヒロインは、視聴者が自分自身と重ね合わせ、共感できるようにするために、標準語を話すことが多いという。金水さんは「特徴的なキャラクターが役割語によって印象づけられている。同時に、私たちは無意識に千尋の目線に引き込まれ、作品の世界を旅している感覚になっている」と話す。

 金水さんが「役割語」の研究を本格的に始めたのは、20年ほど前。大阪大学助教授として、「いる」「おる」「ある」などの「存在表現」の研究をしていた際、手塚治虫の「鉄腕アトム」のお茶の水博士が「わしはアトムの親がわりになっとるわい!」など、「おる」の表現を使っていることに気づいた。

博士らしい言葉遣いだと思っても、実際に博士の立場にある人の話し方は異なります。 そのイメージはどこから来るのでしょうか。歴史をたどると、江戸時代にさかのぼりました。

■「博士語」、さかのぼると……

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