伊藤詩織さんが訴えた事件、なぜ逮捕見送り 警察庁長官との一問一答

田内康介、編集委員・吉田伸八
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 22日に就任した中村格(いたる)・警察庁長官が、東京・霞が関警察庁で記者会見した。主なやりとりは次のとおり。

     ◇

――長官就任にあたって抱負を。

 「警察は第一線警察活動が基本であるとの認識に立ち、令和の時代にふさわしい警察はなんであるのかを常に自問自答し、組織で議論を積み重ね、あるべき将来像を思い描きながら組織運営にあたっていきたい」

 「新型コロナウイルス感染症の拡大をはじめとして、さまざまな分野において、地球スケールで物事が起こっている、そういう時代だと認識している。国内では少子高齢化が進み、人材確保や財政面において将来懸念が生じるのではないかということにも思いを致す必要がある。そういった認識のもとで、国民生活の安全安心をより高い水準で確保するために警察の組織運営はいかにあるべきかについて、先見性、発想力と創造性をフルに発揮し、組織体制づくりや警察力の最適な配分を可能とするための業務の合理化、AIなど先端技術を積極的に取り入れた業務の高度化で業務運営を行いたい」

特殊詐欺への対策

――特殊詐欺の被害が依然として深刻だ。被害防止や検挙はどう進めるか。

 「特殊詐欺は、依然として高齢者を中心に高い水準で被害が発生し、深刻な情勢といわざるを得ない。ほぼ全ての事件の背後に暴力団や準暴力団が介在している実態がある。その認識に基づき、今年4月から特殊詐欺の捜査の事務を組織犯罪対策部門に移管し、特殊詐欺を組織犯罪対策の側面でアプローチし、しっかり抑えていくことにした。取り締まりと被害防止の両面でしっかり施策を展開していきたい。具体的には、犯行グループやその背後にいるとみられる暴力団、準暴力団を徹底して取り締まる、犯行拠点をできるだけ迅速に摘発する、職務質問を行い、受け子らの検挙の積極化を図る、さらに悪質な犯行ツールを提供する事業者の摘発もやっていく」

 「捜査面では多角的、戦略的に進めたい。被害防止の観点では、杉良太郎警察庁特別防犯対策監をはじめ、幅広い層に発信力のある方々とともに全国警察一丸となって関係の団体、事業者とも協力し、新たな手口を国民の皆さんに注意喚起をする広報啓発も含め、社会全体で被害防止のための対策を図っていきたい」

サイバーの脅威への対応

――サイバーの脅威への対応について。警察庁は来年度、サイバー局を新設し、捜査するサイバー隊も設置が見込まれる。組織改編の狙いや今後の対策は。

 「新型コロナウイルス感染の拡大を背景として社会経済活動全体でデジタル化が進展しているなか、サイバー被害が潜在化していくリスクがあるのではないかと懸念している。今年も米国で大きな事案が起こったが、(データを暗号化して身代金を要求する)ランサムウェアをはじめとする悪質なマルウェアを用いたサイバーテロ、そういった攻撃手法の拡散が懸念される。国家を背景としたサイバー攻撃も発生し、依然深刻な状況は続いている」

 「深刻な脅威にどうするのか。まずは民間をはじめとした関係する団体、機関、公的機関も含め、オールジャパンでしっかりと実効的な対策を講じることが必要だ。警察は捜査権をもっている。対処、技術解析をする能力、経験、実績を積み重ねてきた。また、諸外国の捜査機関、情報機関ともパイプが非常に太く、重要な役割を果たしていかなければいけない」

 「サイバー局、サイバー隊を設置し、サイバー事案の解明や対策の強化をめざしたい。サイバー局では、サイバー事案に関する情報の集約や対策の一元化で、効果的、効率的な対策を講じていきたい。サイバー隊は警察庁が自ら捜査を行うが、都道府県警の捜査の補充や調整を行う側面もある。画期的なのは、諸外国の捜査機関の共同オペレーションに参画して、国境を越えたサイバー事案に対処できるようにすることだ。組織改正構想を早期に実現し、国全体でのサイバーセキュリティー対策に警察として貢献できればと考えている」

次世代モビリティーや自動運転について

――小型の次世代モビリティーや自動運転について。人手不足の解消に役立つ可能性があるが、今後の法改正への考えなどは。

 「新たなモビリティーの発展や自動運転の実現は今後のわが国の経済成長の大きな鍵の一つになるのだろうと認識している。他方で、交通の安全の調和を図っていかなければいけないという課題もある。新たなモビリティー、自動運転の交通ルールのあり方については有識者を交えた議論が進められ、報告書も示され、さらに議論が重ねられている。警察庁としても今後の交通ルールのあり方の方向性について検討しているところだ。実証実験の結果もふまえ、関係省庁の協力も得ながら、安全で快適な交通環境を実現すべく、道路交通法の改正も含め、必要な制度整備の検討を進めたい」

 「小型電動モビリティーの一つである電動キックボードでは、交通違反や事故が発生している。国民の皆さんに交通ルールを周知し、悪質、危険な違反は厳正に取り締まるよう都道府県警察を指導していきたい」

テロの脅威への対応

――東京五輪パラリンピックはテロはなく、警備を終えたが、今後もテロの脅威が続く。どう対応していくか。

 「警察ではテロの未然防止やテロへの対処能力の強化に取り組むために、外国の治安情報機関との緊密な連携による情報収集、分析の強化、関係機関と連携した水際対策の強化、テロなどが発生した時の事態対処能力の強化といったテロ対策を推進してきた。こうした取り組みにより、2020東京大会ではテロなどの重大事案の発生を抑止でき、大会の安全で円滑な運営に寄与することもできた」

 「これまで国内外で邦人がテロの犠牲になる事案も発生し、ISIL(過激派組織の「イスラム国」=IS)をはじめとするテロ組織に、わが国や邦人がテロの標的として名指しされており、わが国へのテロの脅威は継続している。さらに、昨今のアフガニスタンの情勢は流動化し、予断を許さない状況で、テロ情勢にどのような影響を及ぼすのか十分に注視をしていかなければいけない。警察は情勢の変化にしっかり適応しながら、引き続き各種のテロ対策を推進していく」

災害への対応

――各地で地震や水害などの災害が発生している。今後も大規模な災害が起き得るが、どう対応するか。

 「豪雨などの自然災害がここ最近は激甚化、頻発化している。今後発生が懸念される南海トラフ地震、首都直下地震、火山噴火などの大規模な災害に十分備えをしていく必要がある。最悪を想定して十分な備えをしていかなければいけない。具体的には、救出・救助活動に必要な車両、救命ボートなどの装備資機材を充実強化していく。警察ヘリを災害対応の機動力の中核として新たに位置づけ、各都道府県警の航空隊は警備部門に移管することにした。さらに、災害発生時の指揮機能を強化するため、警察庁指定広域技能指導官らによる災害対応指揮支援チーム(通称D―SUT)を設置し、災害対処能力の向上を図ってきた。今後も実践的な訓練を重ね、広域緊急援助隊などの対処能力の向上に取り組むほか、ドローンも含む先端技術をしっかり活用し、情報収集、災害対応能力の向上に努めたい」

高齢ドライバーの交通事故対策

――高齢運転者による悲惨な交通事故が後を絶たない。高齢ドライバーによる交通事故対策について。

 「高齢運転者による交通事故の情勢では、免許人口あたりの死亡事故件数が他の年齢層と比較して高い。依然として厳しく、高齢運転者対策は喫緊の課題と認識している。こうした情勢をふまえ、20年の道路交通法の改正で75歳以上の、一定の違反歴のある高齢運転者に対する運転技能検査、安全運転サポート車限定免許を導入し、来年6月までに施行される予定だ。施行に向けた準備を着実に進めていきたい。このほか、高齢運転者講習の円滑な実施、安全運転相談窓口の充実強化、運転に不安を抱える方が自主返納しやすい環境の整備など、引き続き高齢運転者による交通事故の防止に向けた総合的な対策を進めていきたい」

伊藤詩織さんが訴えた性被害の捜査

――ジャーナリストの伊藤詩織さんが元TBS社員による性被害を訴えた事件について。警視庁の署が逮捕状の発付を受けたが執行されなかったと言われている。事件当時は警視庁の刑事部長だった。この事件についてどう判断、対応したのか。また、この件などに絡んで、今回の長官就任についてはネット上などでは疑問視するような声も一部で出ている。その点についてもどう考えるか。

 「まず、最後に人事の話があったが、自分自身の人事についてなにかコメントする立場ではないので、ご理解いただきたいと思う」

 「また、いまお尋ねのあった捜査の関係だが、これは、私が過去の職で関係した個別の事件捜査に関するお尋ねで、その件は警視庁において告訴を受理し、法と証拠に基づいて、組織として捜査を尽くした上で検察庁に送致し、その後検察庁において不起訴処分がなされ、さらにその後の検察審査会においても不起訴相当の議決がなされたといった経緯をたどったものであることから、その捜査の過程について具体的に言及するのは控えるべきと考えている。その上で、私は様々なポストで数多くの事件捜査、捜査指揮にあたってきたし、その経験がある。そのような中で、捜査指揮にあたっては常に法と証拠に基づいて適切に判断をしてきたと考えている。その姿勢を貫いてきた。法と証拠以外の他事を考慮して、何らかの捜査上の判断をしたということは一度もない。もとより、現行のわが国の刑罰法規に抵触しないということであれば立件ができないのは当然であり、また、適正捜査を進めて収集した証拠を十分吟味して、強制捜査への移行というのは(移行する際には)十分慎重を期すべきであることもまた当然であると考えている」(田内康介、編集委員・吉田伸八