17歳で父になり、コンビニの廃棄弁当を食った「全てをかけていた」

伊藤雅哉
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 世界ボクシング評議会(WBC)ライトフライ級タイトル戦が22日、京都市体育館であり、同級1位の矢吹正道(29)=緑=が、王者の寺地拳四朗(29)=BMB=を10回2分59秒TKOで下し、新王者になった。矢吹はデビュー6年目で世界初挑戦だった。日本のジム所属の現役男子選手で最多の8連続防衛中だった寺地は、2017年5月から守ってきたタイトルを失った。

 勝敗を分けたのは、執念の差だけだった。「この試合で死んでもいい」。矢吹はそう思っていた。その気迫が、4年以上もタイトルを守った寺地を崩した。

 8回終了後の公開採点はジャッジ3者とも矢吹を支持。9回、いつもは涼しい顔の寺地が鬼の形相で前に出てきた。よろめき、ゴングに救われた。「あきらめそうにもなった」。10回、頭をつけて打ち合い、最後は寺地をロープに釘付けに。新王者が誕生した。

 精密機械のように打っては離れ、相手に触れさせない寺地に対し、野性味で対抗した。空振りしても、連打しながら距離を詰める。「不細工でいい」と思っていた。ポイントで優位に立ち、結果的に自分が得意とする打ち合いに相手を引っ張り込んだ。「この試合に全てかけていた。これで引退してもいいと思っている」。真顔でそう言った。

 家庭の愛に恵まれず、荒れた少年時代を過ごした。だからこそ、若くして築いた自分の家族を大切にした。長女の夢月さんが生まれたのは17歳の時で、妻の恭子さんは16歳だった。いつも金銭的に苦しく、矢吹はコンビニの廃棄弁当をもらって食べたこともある。昨年、日本王者になってからも建築業を続け、バスでジムに通った。試合直前、家族の写真を見てリングに上がった。

 本名は佐藤。リングネームは漫画「あしたのジョー」の主人公・矢吹丈にちなんだ。名前を売り、金を稼ぐためだ。大振りを続けたことでスタミナは尽きたが、「何とか耐えていたら、最後にチャンスが来た」。家族が見守る前で、夢をかなえた。伊藤雅哉

 やぶき・まさみち 本名は佐藤正道。三重県鈴鹿市出身。リングネームは漫画「あしたのジョー」の主人公にちなんだもの。2016年3月にプロデビュー。20年7月にライトフライ級の日本王者になった。身長166・4センチの右ボクサーファイター。家族は妻と1女1男。