運ばれる「新幹線」撮った 池井戸潤が挑む「撮影NG」だらけの工場

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文・写真 池井戸潤 映像報道部・杉本康弘 「好書好日」編集長・加藤修
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池井戸潤が撮る 日本の工場

 作家の池井戸潤さんが仕事の現場を訪ねる企画が、朝日新聞土曜別刷り「be」で連載中です。今回は、愛知県豊川市にある日本車両製造豊川製作所。歴代の新幹線など数々の鉄道車両を生み出してきた工場です。その歴史と技術の粋に、カメラとペンで迫ります。デジタル版では池井戸さんが撮影した写真をたっぷりご覧いただけます。

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 日本車両製造(以下、日本車両)豊川製作所さんにお邪魔したら、立派な正面ゲートが閉まっていた。

 曰(いわ)く、正門は人がくぐるためにあらず――。

 では誰が通るのかといえば、出荷される車両だけなのだとか。

 見ると出来たてホヤホヤの新幹線車両が専用の大型運搬車に載せられ、炎天下、出発のときを待っていた。新幹線開業時から車両製造に携わり、累計製造数は4千両を超える。鉄道車両製造の金字塔だ。

 創業は1896年。鉄道事業というと官製を想像しがちだが、創業者奥田正香(おくだまさか)は、味噌(みそ)や醬油(しょうゆ)で財をなした旧尾張藩士。つまり、一介の民間人であった。当時輸入に頼っていた鉄道車両の重要性と将来性に着目し、国産の鉄道車両製造をいち早く手がけたパイオニアである。

 爾来(じらい)、景気の波を乗り越え、ときに戦火をくぐり抜け、あらゆる鉄道車両を造り続けて125年ほど。

 いま車両製造の主力工場である豊川製作所の敷地面積は25万平方メートル。地元中日ドラゴンズに敬意を表するなら、ナゴヤドーム(バンテリンドーム)5・2個分の平坦(へいたん)な土地に工程別の巨大工場や検査場、試験場が軒を並べる。

 この日は豊川製作所長の三木一敏さんの案内で工場内を見学させていただいたが、さすが電車や新幹線の車両といった大物を手がけているだけあって、スケールが大きい。さらに野趣を感じる。開口部がぱっくり開いた建屋は、「夏は暑いし冬は寒い」という季節直撃構造。唯一の例外は、ケバなどを嫌う塗装工程か。

 ある建屋では頭上を通る梁(はり)に、なにかの穴が開いていた。なんぞやと見ていると、

「あれは戦時中に受けた銃弾の痕です」と三木所長。

 歴史の生き証人でもある。

 新幹線の場合、1編成の車両を製造するのに、部材の切り出しから完成までに8カ月もかかるというお話には驚いた。

 しかも受注生産で、余分な材…

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