犬の放し飼い容疑で異例の逮捕はなぜ? 長年の近所トラブル背景に

上保晃平
[PR]

 ペットの犬を放し飼いにしていたとして、千葉県鎌ケ谷市に住む女(59)が今月上旬、県動物愛護管理条例違反(犬の係留義務)容疑で県警に逮捕された。その後地検に処分保留で釈放されたが、同容疑で警察が逮捕に踏み切ったのは異例だという。背景には、長年犬の管理を巡って近隣住民とトラブルになっていた深刻な事情があったようだ。

 鎌ケ谷署によると、逮捕容疑は8月5日午前4時40分ごろ、自宅近くの市道で法定の除外理由がないにもかかわらず、雄のスタンダードプードル(4歳)を放し飼いにし、係留しなかったというもの。女は容疑を否認していたという。

 署などによると、女はこのプードルのほか、小型犬4匹と猫1匹を飼育している。ペットの管理を巡り、10年以上前から近隣住民から苦情や相談が絶えず、行政と連携して対処してきたが、今年6月ごろからは連日のように署員が出動する事態になっていたという。

 8月5日早朝、近隣住民から「犬の鳴き声がうるさい」と110番通報があり、署員が駆けつけると、係留されていない女の飼い犬が住宅街をうろついていた。署員が女に事情を聴こうとしたが、犬を連れて自宅にこもって聴取を拒否。逮捕までの約1カ月間に計6回の出頭要請に応じなかったという。

 記者が近所で話を聞くと、長年トラブルに悩まされてきた住民の姿が浮かぶ。近隣住民の男性によると、女が飼っている犬にリードはついていたが、「全力で走りまわり、今にも飛びかかってくるような感じで怖かった」と話す。犬の管理について注意した別の住民に女が「あんた、何よ」「犬が怖がるじゃないの」と声を荒らげるのを見かけたこともあるという。

 また別の男性は、3年ほど前から自宅の敷地内で犬にふんやおしっこをされたり、ごみを荒らされたりする被害を受けてきたという。女の飼い犬の仕業だとみられるが、注意してトラブルになることを恐れ、ずっと我慢してきたという。

 一方、千葉地検松戸支部に処分保留で釈放された女は朝日新聞の取材に応じ、「たまに持ち手の部分が外れることはあるが、犬は普段きちんとリードにつないでいる」と反論した。逮捕容疑とされた当日は、犬を敷地内につないでいたが、目を離した隙につなぎ目が外れて市道に出てしまったと説明し、「故意ではなかった」とした。「ふんなどはいつもきちんと処理していて、犬がほえることもほとんどない」とも話した。

     ◇

 ペットの管理を巡って立件された事例としてはこれまでにも、ペットが人にけがをさせて重過失傷害容疑で、劣悪な環境で飼育したとして動物愛護法違反容疑でそれぞれ逮捕されたケースなどがある。

 2015年施行の県動物愛護管理条例では、従来の法律では対応が難しかった「犬の係留義務」が定められ、違反すると30万円以下の罰金刑が課される。首輪が壊れて逃げ出した飼い犬が通行人をかんでけがをさせたとして、同条例違反と過失傷害の両容疑で書類送検された例もある。

 だが、今回のように放し飼いだけで逮捕されるケースは極めて珍しいという。署では逮捕の判断について、「これまでの経緯や住民感情に加え、再三の任意の調べにも応じてもらえなかったため、やむを得ず逮捕に踏み切った」(幹部)と説明している。

 ペットの法律問題に詳しい細川敦史弁護士によると、自治体による飼い主への指導監督や、近隣住民による民事調停の申し立てといった手段には限界があるという。今回の逮捕については「逃亡や証拠隠滅の恐れがあるとは言い難いのに逮捕したのであれば、適正な判断ではない」とした上で、「近隣、行政、警察のいうことを全く聞かない飼い主にショックを与える意図があったのかもしれない」と指摘する。(上保晃平)

各ケースで適用される可能性がある罪名

●管理を怠った飼い犬が他人をかんでけがをさせた→重過失傷害罪

●犬を劣悪な環境で飼育、虐待→動物愛護法違反罪

●犬をリードなどでつながず放し飼い→県動物愛護管理条例違反(犬の係留義務)罪