被害者の心のケア対応、現実さながらの場面で訓練

原田達矢
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 【京都】災害や事件・事故の被害者や遺族に、警察官や医療関係者はどう寄り添い、心のケアをするべきか。答えが一つではないこの問題を考える上で、臨機応変のやりとりを迫られる「即興劇」型の対応訓練が注目を集めている。

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 涙でマスクをびしょぬれにして泣き崩れ、女性は悲鳴のような声を上げた。

 「何で夫なんですかっ」

 その肩に手を添えて、横から女性警察官が説明する。

 「事件で亡くなったかを確認するために、解剖が必要なんです」

 女性は再び声を上げた。

 「解剖なんて。これ以上、からだを傷つけないで」

 警察官は女性の様子が落ち着くのを待って、「どうか、ご理解ください」と語りかけた。

 京都市中京区の路上で男がナイフを振り回し、親子連れと会社員男性の計3人がその犠牲になった――。こんな設定で、今月に京都市内で実施された訓練の一場面だ。

 参加したのは、医療関係者でつくる団体「日本DMORT(ディモート)」の看護師らと京都府警の警察官ら計35人。遺族に遺体の状態を確認してもらい、司法解剖に同意してもらうまでの対応を確認しあった。

 決まった手順を確認するだけの訓練ではなく、現実さながらの身ぶり手ぶり、ほぼアドリブのせりふ回しを通じて、臨機応変に対応してもらう。「ロールプレイング」形式と呼ばれる手法だ。日本DMORTと府警が今年3月に被害者支援などでの連携協定を結び、実現した。

 警察官からは「(遺族役の示した感情の強さに)圧倒されて、説明する時に思わず『解剖』という言葉を早く出してしまった」などの声も出た。

 訓練後、上京署の被害者担当の松井良輔警部補(38)は「警察官の仕事はマニュアルに縛られる部分もある。ただ、遺族一人一人にあわせて異なる対応が必要と身をもって感じさせられた」と話した。

 訓練で迫真の演技を見せ、緊張感に満ちた経験を参加者らにもたらしたのが遺族役だ。

 演じたのは、京都芸術大で演技を専攻する学生5人。舞台芸術学科の平井愛子教授の呼びかけに集まった。中には、俳優としてテレビドラマや舞台で既に活躍している「セミプロ」の人も。5人は、府警が事前に示したあらすじを基に、自分のせりふを考えた。

 犠牲者の母親役を演じた3年の本村玲奈さん(20)は「演技で社会貢献をしたくて参加を決めました」。新型コロナウイルスの影響で昨年前期の講義はオンライン。「演じる機会をいただけるだけでうれしかった」と話す。

 訓練までの約2週間、「自分だったらどういう気持ちになるか」と自問自答。飲酒運転事故で息子を亡くした母親の手記で読んだ「どんな状況でも生きていてほしい」という言葉に心を打たれた。訓練後、「自分の周りで同じようなことが起きたら、どう声をかけるか、考えるきっかけになった」と話した。

 同じく遺族役を演じた3年の鎌田茜さん(21)は、犯人や制度のことを聞こうとせりふを準備したが、「その状況になると、犯人よりも家族がどうなったかしか考えられなかった」と話した。

 日本DMORTは、全国の警察と協定を結び、同様の共同訓練を重ねている。2016年の熊本地震の現場などで、行政と医療関係者のどちらがどのように遺族に声をかけるか、判断に悩む場面があったことなどがきっかけだ。同団体の河野智子理事は「学生さんの力で非常に良い訓練になった。災害に備えて、警察との役割分担のあり方を確認していきたい」と話した。(原田達矢)