「あの薬、実は効きませんでした」 何年も使われた治療薬が、なぜ?

酒井健司
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 前回お話をした通り、抗マラリア薬のヒドロキシクロロキンは新型コロナに効くことが期待されているものの、残念ながら確かな効果は確認されていませんでした。医師の実感だけで薬に効果があるかどうかを判断するのは難しいことです。いったんは承認され、保険適用されて広く使われていたにもかかわらず、のちに効果が再確認できなかった薬もあります。

 日本では脳血管障害になる人が多く、発症後の認知能力・意欲の低下に対する治療薬の需要がありました。1990年代の日本では、脳循環代謝改善薬が広く使われていました。代表的な商品名は「アバン」「カラン」です。年間に1000億円以上もの売り上げがあったと言います。しかしながら、改めてプラセボを対照とした比較試験で再評価を行うと効果が確認できず、多くの脳循環代謝改善薬は承認を取り消されました。現在ではほとんど使用されていません。

 当時私は研修医で、脳循環代謝改善薬の使用経験はほとんどありません。ただ、諸先輩方の話を聞くに、臨床の現場では確かに効果があるように感じられたとのことです。後知恵で考えると、脳血管障害を起こしたのちに薬を開始すると、薬を使わなくても起きる自然な回復を薬の効果だと誤認したのでしょう。これで薬が効いたとするのは典型的な「使った、治った、効いた」の「3た論法」です。

 また、適切な代替薬がなく「何もしないよりまし」だとされたことも使用に拍車をかけました。「医師はもうかるから効かなくても薬を処方するのだろう」などと言われることもありますが、「効くかもしれないなら薬を使ってほしい」という患者さん側からの要望も影響します。患者さんの話を親身に聞いて、何とか治したいという医師の熱意が薬の処方につながるのです。脳循環代謝改善薬に大きな副作用がなかったことは幸いですが、それでも効果が確認できない薬に無駄に医療費が使われたという問題は残ります。

 そもそも、再評価で効果が確認できないような薬がなぜ承認されたのでしょうか。承認当時には確かに有効であったが再評価時点で医療環境の変わったため、といった説明もありますが、承認時の評価が甘かったと言わざるを得ないと私は考えます。効果が不確かなまま拙速に承認すると、後々ツケを払うことになります。脳循環代謝改善薬以外にも再評価で効果が確認できなかった薬はあります。承認されているから、保険適用になっているから、効果を実感できたとからいう理由で有効性があると信じ込むのは危ういです。一方で何もかも信じないのはただの医療否定になってしまいます。

 医療の有効性の「確からしさ」には濃淡があります。未承認の薬の確からしさは低く、承認されていても有効性が確認された研究が古かったり乏しかったりすると薬の確からしさは中くらいで、複数の臨床試験とリアルワールドデータで効果が確認できた薬の確からしさは高い、といった具合です。あとは効果の大きさや副作用との兼ね合いで判断いたします。(酒井健司)

酒井健司
酒井健司(さかい・けんじ)内科医
1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。