「念のため」の出生前検査でパニックに 妊婦さんの判断どう支える?

安仁周 神宮司実玲 富田洸平
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 おなかの赤ちゃんの疾患の有無を調べる出生前検査。国は今春、検査の情報提供のあり方を見直し、検査施設の認定などにも関わっていく方針を示しました。私たちはどう向き合うべきか考えます。

「陽性」に頭が真っ白、毎日悩んだ 妊婦へのサポート体制は十分か 記者の経験から

 第2子を妊娠していた昨年、産婦人科にあった案内を見て「母体血清マーカー検査」を申し込んだ。ダウン症候群、18トリソミーや神経管閉鎖障害の可能性が採血だけでわかるので、「念のため」と受けた。結果はダウン症の可能性が基準値より高い「陽性」とあり、頭が真っ白になった。

 「命の選別につながるような検査をなぜ受けたのか」と深く後悔した。「どんな子でも……」と思えない自分に罪悪感があった。担当医は忙しそうで話せそうになく、困り果てて相談した自治体の保健師から総合病院の「遺伝カウンセリング」を教えてもらった。専門医から詳しい説明を聞いてやっと、ダウン症の有無を調べる羊水検査は受けないと決めることができた。

 専門医からは、陽性でも私の可能性は基準値と比較的近い数字であること、そして「新生児の先天性疾患は全出生数の約5%」ということなどを話してもらった。今の時点でわからない病気はいくらでもある、気にしたらキリがないと考えが固まった。義母からの「みんなで育てましょう」という言葉も支えになった。でも決意できるまで毎日、どうすれば良いかわからず悩んで苦しかった。

 遺伝カウンセリングは平日に原則パートナー同伴で行かねばならず、費用もかかる。検査結果について相談できる場所がもっと身近にないかと思ったが、自治体やNPOにも尋ねてみたところ、今のところはほぼないようだ。現状を専門家に聞くと、「関連学会のガイドライン上、出生前検査は遺伝カウンセリングを受けた上で実施するのがルール」という。遺伝カウンセリングでは検査前の十分な説明と、結果が出た後のケアもある。

 「最初から体制の整う病院で受けていたら……」。そう思ったが、母体血清マーカー検査は以前から産科で自由に提供されており、そこまで考えは及ばなかった。専門家はこの状況を「検査だけして、結果は妊婦に丸投げ」と指摘する。

 厚生労働省は今年、妊婦が希望した場合、自治体窓口で検査の内容を説明するリーフレットを配るなどの新方針を示した。だがサポート体制が十分でない現状に不安の声もある。私のように混乱する妊婦はいないか、心配だ。(安仁周)

NIPT、認定外施設の検査広がる 遺伝カウンセリングの不備など問題に

 赤ちゃんの染色体遺伝子の異常を事前に調べる検査には、重い遺伝病の有無を判別したり、不妊治療や繰り返す流産を防いだりするために体外受精した受精卵を調べる着床前検査と、妊娠後に調べる出生前検査があります。

 出生前検査は、1960年代にダウン症など赤ちゃんの染色体異常によって起こる疾患を調べる羊水検査で始まりました。90年代には、妊婦の血液中のたんぱく質などの濃度を調べる「母体血清マーカー検査」が始まり、より簡単に検査できるようになりました。

 一方で、検査が障害のある人への誤った理解や差別につながらないかなどの懸念があります。厚生労働省は99年、母体血清マーカー検査について、十分に理解せずに受けて混乱したりする恐れがある、などとして、「医師は妊婦に(検査について)積極的に知らせる必要はない」と見解を出しました。

 2013年には、妊婦の血液からおなかの赤ちゃんのダウン症などを調べる出生前検査(NIPT)が始まりました。妊娠10週から可能で、血液に含まれる胎児のDNAから染色体の数を調べます。

 この検査は「新型出生前診断」と呼ばれてきましたが、厚労省は今年5月、「検査法が確立されてから年月が経ち、『新型』と形容するのは適当ではない」などとして、行政機関などにNIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)と呼ぶように求めています。

 NIPTは、日本産科婦人科学会がつくった指針のもとで、産婦人科医や小児科医、遺伝にかかわる相談ができる専門医がいることなどを条件に認定された大学病院など全国108カ所の施設で行っています。原則35歳以上の妊婦を対象に、調べる疾患は、13、18、21トリソミーの三つに限定しています。

 陽性の人を正確に判定する感度は約99%と非常に高いですが、陽性の場合、確定診断には羊水検査などが必要です。

 人工妊娠中絶は法律で、妊娠22週未満までと決められています。検査後に羊水検査などで診断が確定した妊婦の約9割は中絶を選んだという調査もあります。

 NIPTは、妊娠初期にできる、より正確な検査として広がりました。一方、血液検査だけですむため、指針に従わない認定外の施設が急増しました。美容外科など産婦人科以外の施設が多く、認定施設を上回る数の検査をしているとの指摘もあります。適切な遺伝カウンセリングが行われずに、妊婦が検査を受ける事例が増えていると問題になっています。

 施設の認定などは、これまで学会の自主規制で運用していましたが、国も参加する新しい組織で行うことが決まりました。認定施設が少ないという問題もありました。産婦人科のクリニックも大規模な医療機関と連携する形で認めるなど、増える見込みです。美容外科など専門以外の施設は認定されないと見られますが、認定外施設に対する規制などは明らかになっておらず、こうした施設が残ることも予想されます。

 妊婦への情報提供も課題です。出産年齢の高年齢化などを背景に、情報を求める妊婦は増えています。正しく理解、判断するための情報提供を行うべきだとして、ホームページでの周知や、市町村の母子保健窓口などで相談を受けた場合、リーフレットを配ることや、必要に応じて適切な支援機関などを紹介することを検討しています。(神宮司実玲)

「妊婦の判断、検査後もフォローを」 産婦人科医・昭和大学教授 関沢明彦さん

 日本では「何のために出生前検査をするのか」という目的が長年、はっきりと示されてきませんでした。イギリスやアメリカなどでは、「産むか産まないかなど生殖に関わることを自分で決める」という考えをもとに、その判断の材料とすることが目的の一つになっています。

 厚生労働省の専門委員会が今年5月にまとめた出生前検査の報告書は「胎児の状況を正確に把握し、将来の予測をたて、妊婦やパートナーの家族形成のあり方などの意思決定の支援」が目的と位置づけました。その点は大きな進歩だと考えています。

 出生前検査の議論は倫理面も含め、様々な立場の人がそれぞれの信念に基づいた意見をぶつけ合ってきました。一方で、当事者である妊婦さんがどう考え、どうしてほしいかという意見はなかなか反映されにくい状況でした。

 検査を受けることについて「命の選別」「安易な選択」といった意見もあります。しかし、その判断をする時、実際に妊婦さんがどれほど悩んでいるかを考えれば、そうした言葉を使うことに配慮が必要だと思います。

 医療者側も、たとえば産婦人科医の中にも人工妊娠中絶には関わらないという人もいるように、それぞれ主義や主張がある。産婦人科医や医療者全体がこの問題について、同じ考え方をするのは難しいのです。

 結局、育てていくのは親です。経済的にも、社会的にも、置かれている状況は違います。私は、最終的にそれぞれの妊婦さんがよく考えて判断すべきことだと思っています。

 そうしたことを踏まえると、検査前のカウンセリングなどで妊婦さんの意思決定をサポートし、検査後もフォローしていくことが大切だと考えます。

 まずは、どのような検査で、どのような情報が得られるのかきちんと理解してもらわなければなりません。漠然と異常のある子が生まれることが不安で検査を受けたいという妊婦さんが多いですが、染色体の病気なら、その種類やどのくらいの確率なのかといった点を医学的にしっかりと説明します。それでも心配かどうか、十分に考えて次の検査に進むかどうかを決めてもらう。

 検査後に夫婦で意見に相違が出ることもあるため、検査前から夫婦で思いを共有しながら進めなければならないと伝えています。

 妊娠時の対応のほか、学校教育のなかで教えていくことも重要です。染色体疾患のある子を誰しもが産む可能性があることや妊娠の適齢期など、妊娠に関する知識を等しくみんなが持っていることで、染色体疾患に対する認識や社会的な受け入れ状況も変わっていくのではないでしょうか。(富田洸平)

「受診者を孤立させないで」

 フォーラムアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。そのほかはhttps://www.asahi.com/opinion/forum/140/で読むことができます。

●診断受ける覚悟必要

 3年前の妊娠中に行いました。ただ、診断の存在を知っていて否定的だった自身でさえ、産婦人科で当たり前のように説明されたのには驚きました。私としてはすごく悩みましたが、先生と夫の「もし障がいをもって生まれてきたときに、早く病院につなげることができる」という前向きな意見に押されました。でも、やはり診断待ちの期間は不安で、異常無しと告げられたときはホッとしました。

 障がいがある子だとしたら、付きっきりになって自分は仕事復帰できるのか、そこが不安でした。普段から障がいのある人との接点があれば見方も変わると思いますし、陽性だとしても中絶するのか、そこまで決めて診断を受ける覚悟が必要だと感じました。(神奈川県 30代女性)

●検査に罪悪感

 今、臨月の妊婦です。不妊治療で授かった長男(40歳で出産)、今度生まれる次男(42歳で出産)ともに、NIPTを受けました。

 1人目のときはとにかく不安で、事前に可能性を知りたかった。2人目に関しては、両親が高齢のため、長男の負担になることは避けたいという思いから、検査を受けました。ダウン症の寿命は、60歳だと聞いていて…自分たちだけで面倒を見切れない可能性が高いと判断したためです。結果、2人とも陰性でしたが、このような検査を受けることに罪悪感がなかったわけではありません。(東京都 40代女性)

●フォロー体制作りを

 どのような決断を下しても受診者が孤立化することのないようにその後をフォローする体制づくりも大切です。並行して診断結果だけを送りつけるような機関は取り締まって欲しいです。命に関する決断はみんな命懸けでやっていることだと思います。産む決断、産まない決断、どちらをしても他人に意見されることではないです。(兵庫県 20代女性)

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