肱川の恵み、とろける食感 掘りたて炊きたてサトイモ、秋の主役に

天野光一
【動画】愛媛県大洲市のサトイモ=天野光一撮影
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 お月見の季節になると、愛媛県内の多くのスーパーに「サトイモ」コーナーができる。まんまるな見た目にやさしい口当たりが大好きなので、昨年、愛媛に転勤して来てから、よく食べるようになった。地味にして滋味。実りの秋、食卓の脇役のイメージが強いサトイモが、主役を張る。

 農林水産省の統計によると、愛媛県のサトイモの収穫量は1万200トンで全国4位(2019年)。10アールあたりの収穫量は全国平均の1260キロの2倍近い2380キロ。全国トップだ。中でも大洲市は、山形県中山町、島根県津和野町とともに「日本三大芋煮」のまちとして、サトイモを大々的にPRしている。

 大洲市中心部から東へ約5キロ、水田の間にぽつぽつとサトイモ畑が広がる菅田(すげた)地区を訪れた。300アールの畑をもつ竹岡宏晃さん(65)が残暑の中、収穫期を迎えたサトイモを掘り出し、カマで1個ずつ、丸く形を整える作業を続けていた。

 サトイモは3月上旬に種芋を植え、8月末から正月にかけて収穫、出荷する。栽培で大切なのは夏の水やりだという。近くを流れる肱(ひじ)川の豊富な水がカギを握る。一方で、肱川はたびたび氾濫(はんらん)し、流域に水害をもたらしてきた。3年前の西日本豪雨の時には、竹岡さんの畑も冠水した。

 「たまに暴れ川となる肱川だが、良質な土も運んで来てくれる。肱川とは仲良くしていきたい」と竹岡さん。掘りたてのサトイモを手に、「炊くとねっとり、とろける食感があって、おいしいよ」。

 大洲では芋煮を「いもたき」と呼ぶ。サトイモを鶏肉、油揚げ、こんにゃく、シイタケなどとともに、しょうゆベースで煮込んだ甘めの味付けが一般的だ。

 市によると、秋に農家がサトイモを河原に持ち寄り、肱川のアユで取っただしで炊き、輪になって食べる「お籠(こ)もり」という行事が江戸時代からあったという。市は1960年代から観光行事としてPR。最盛期には7万8千人の観光客が訪れたが、今年はコロナ禍のため中止になった。

 それでも、いもたきは大洲の秋の風物詩。市商工産業課の清水実奈さん(30)は「店やテイクアウトで楽しんでほしい」と話す。

 郷土料理が味わえる「料苑たる井」で、いもたきを作ってもらった。社長の樽井朗(あきら)さん(75)によると、サトイモは1日で色が変わるため、「掘りたて、炊きたてが一番おいしい。肱川の恵みを受け、このあたりの根菜は味が良い」。

 樽井さんのこだわりは、雑味を出さないための下処理だ。サトイモはぬめりを取るため、米ぬかで下ゆでする。他の具材も、油揚げは油抜きし、こんにゃくはあく抜きを徹底する。

 そうして炊き合わせたいもたきは、シイタケのだしがきいた上品な薄味。主役のサトイモはごろりと丸いまま。土の香りもちゃんと生きていて、舌で押すだけでつぶれ、するりとのどを通っていった。

 透明感のあるだし汁は、人々の肱川への感謝が溶け込んだよう。口に含むと深い味わいが広がった。(天野光一)

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 料苑たる井 大正時代から90年間引き継がれてきたタレが自慢のウナギのかば焼きや、アユの塩焼きなど川魚料理が多彩。いもたきは冷蔵便もあり、2人前2パックのセットが2500円(税込み、送料別)。愛媛県大洲市若宮465の1。電話0893・24・4585。JR伊予大洲駅から徒歩3分。

 系列の「との町たる井」(同市殿町553の19、電話0893・24・3000)では10月末まで、いもたき定食(税込み1200円)が味わえる。月曜休み。